エアコンクリーニングを先延ばしにする理由の第一位は、たぶん予算ではありません。「店を止められない」です。
一台九十分から百八十分。台数が十台あれば、単純計算で十五時間から三十時間。営業中にやるわけにはいきません。
ただ、実際には多くの現場で、営業を止めずに済んでいます。段取りの問題です。
まず時期の話から。
建築物衛生法施行規則は、冷却塔や加湿装置、排水受けの点検について「当該設備の使用開始時及び使用を開始した後、一月以内ごとに一回」と定めています。
空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準(平成十五年告示第百十九号)も、加湿減湿装置について「運転期間開始時及び運転期間中の適宜の時期に」点検を行うこととしています。
条文が繰り返し「使用開始時」と書いているのは、シーズンの頭に状態を整えるという考え方があるからです。
だから、洗浄も同じタイミングが合理的です。冷房なら四月から五月、暖房なら九月から十月。シーズンに入る前です。
これは省エネの面からも言えます。
資源エネルギー庁の公表値では、フィルターを月一回から二回清掃することで年間31.95kWh、約990円の削減(冷房能力2.2kWのエアコンの場合)。これは年間の数字です。
つまり、効率が戻った状態でシーズンを丸ごと過ごせるかどうかで、取り返せる金額が変わります。八月に洗っても、その夏はもう半分終わっています。
繁忙期を外せるという意味でも、シーズン前が有利です。七月と八月は洗浄業者の予定が埋まります。四月や十月なら、日程の調整もしやすくなります。
次に、当日の組み方です。
十台を一日で、と考えるから止まるのであって、分けてしまえば話は変わります。
分け方は三つあります。
ゾーンで分ける。事務所なら、島ごと・部署ごと。一系統を止めているあいだ、その区画の人には別の場所に移ってもらうか、隣の系統でしのぎます。
フロアで分ける。複数階なら、一日一フロア。上から下へ、あるいは使用頻度の低いフロアから。
時間帯で分ける。開店前、閉店後、アイドルタイム。一日二台ずつ、五日に分ける、という組み方です。
一日あたりの台数を減らせば、そのぶん日数は増えます。ただ、営業を止めないという条件では、これがいちばん現実的です。
現場ごとに、使える時間帯は違います。よくあるパターンを並べます。
飲食店。定休日が第一候補です。定休日がない場合は、開店前の時間帯。仕込みの動線とぶつからないよう、ホール側から先に進めます。アイドルタイム(十四時から十七時ごろ)は、意外と落ち着いて作業できます。厨房まわりの機器は、油の量が多いので時間を多めに見積もります。
事務所・オフィス。土日が基本です。ビルの共用部が使える時間帯かどうか、管理会社への届出が必要かどうかを先に確認します。年末年始やお盆の長期休暇も狙い目ですが、業者側の予定も埋まりやすい時期です。
物販店舗。開店前か閉店後。閉店後は、レジ締めや在庫作業と重なることがあるので、時間を切ってから始めます。商品の養生に手間がかかる業種です。
医療機関・介護施設。外来の休診日が第一候補。入居施設では、フロアごとに利用者に移動していただく必要があるので、日程調整に時間がかかります。早めに動きます。
学校・教育施設。長期休業期間が最適です。夏休みは業者の繁忙期と重なるので、春休みや冬休みも検討する価値があります。
ホテル・旅館。客室は稼働の谷間。共用部とレストランは、閉鎖できる日を先に決めます。
正直に書きます。営業時間外の作業は、費用が上がることがあります。
理由は三つです。作業員の時間外手当。ビルによっては共用部の使用料や管理人の立会費。そして、一日あたりの作業台数が減るぶん、日数が増えます。
ただ、営業を止めた場合の逸失利益と比べれば、たいていは夜間作業のほうが安くつきます。飲食店で一日休業すれば、売上がまるごと消えます。
どちらが得かは現場ごとに違うので、見積りのときに「営業時間内」「営業時間外」の両方で出してもらうのが確実です。当社でもその形でお出ししています。
実際の作業時間を短縮するために、施設側にご協力いただけると効くことがあります。
一つ、事前に什器と商品を動かしておく。エアコンの真下から半径二メートルほどが空いていると、養生が早く終わります。
二つ、脚立が置けるスペースを確保する。畳一枚ほどです。
三つ、水道と電源の使用場所を先に決めておく。当日に探すと十分から二十分かかります。
四つ、洗浄したカバーやフィルターをすすぐ場所を決めておく。浴室、給湯室、屋外の水栓など。
五つ、ブレーカーの位置と操作の担当を決めておく。作業中に誰かが上げてしまわないよう、札を掛けます。
この五つで、一台あたり十五分から三十分は変わります。十台なら二時間半から五時間です。
作業中に出るものについても、先にお伝えしておきます。
音。エアコン用の高圧洗浄機を使いますので、掃除機程度の音が発生します。連続して出るわけではなく、洗浄の工程だけです。隣接する会議室や客席がある場合は、時間帯をずらします。
匂い。洗浄剤そのものの匂いは強くありませんが、内部に溜まっていた汚れが出てくるときに一時的に匂うことがあります。窓を開けられる環境なら、作業後に換気をします。
水。養生をしていても、床に水が落ちる可能性はゼロではありません。作業範囲の床は養生シートで覆います。カーペットや無垢材の床は、事前にお伝えください。
作業員が通る道と、お客様や職員が通る道を分けておくと、トラブルが減ります。
資材の搬入経路(高圧洗浄機、脚立、養生材、バケツ)。
汚水の排出経路(バケツを運ぶ道)。
洗浄したパネルを運ぶ経路。
このうち、いちばん気を使うのが汚水です。黒い水が入ったバケツを、お客様の目の前を通って運ぶのは避けたいところです。
台数の目安です。
作業員二名で、天井カセット型なら一日四台から六台。設置環境がよければもう少し進みますが、養生に時間がかかる現場では三台ということもあります。
壁掛け型や床置き型は、天井カセット型より早く終わります。
台数が多い現場では、日を分けるか、作業員の人数を増やすかの選択になります。人数を増やせば一日で終わりますが、その日の店内は作業員でいっぱいになります。どちらがよいかは、現場の広さ次第です。
最後に、単発で終わらせない話を。
これまでの記事で出てきた頻度を、年間のカレンダーに置くとこうなります。
毎月 ドレンパン・加湿装置・冷却塔の点検(建築物衛生法・事務所衛生基準規則)
毎月一〜二回 フィルター清掃
二か月ごと 空気環境測定(年六回)
三か月ごと フロン排出抑制法の簡易点検(年四回)
年一回 冷却塔・冷却水管・加湿装置の清掃
シーズン前 エアコン本体の分解洗浄
この表を一枚作っておけば、洗浄の日程も自然に決まります。「今年はいつやろう」と毎年考えなくてよくなります。
当社では、複数台・複数フロアの現場について、日程の分割案を含めてお見積りをお出ししています。
洗浄の時期は、シーズンの前。法令が点検の起点を「使用開始時」と定めているのと同じ考え方です。冷房なら四〜五月、暖房なら九〜十月。
省エネ効果は年間で効くので、シーズンの頭にやるほど取り返しが大きくなります。
一日で全部やろうとせず、ゾーン・フロア・時間帯で分けます。
業種ごとに使える時間帯は違います。飲食店は定休日かアイドルタイム、事務所は土日、学校は長期休業期間。
営業時間外の作業は費用が上がることがありますが、休業による損失と比べて判断します。見積りは両方の条件で出してもらうのが確実です。
什器の移動、脚立スペース、水道と電源、すすぎ場所、ブレーカーの担当。この五つを事前に決めておくと、一台あたり十五分から三十分短縮できます。
株式会社雅堂では、営業時間内・時間外の両方でお見積りをお出しできます。現地調査は無料です。
建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)
厚生労働省 建築物における衛生的環境の維持管理について(建築物環境衛生維持管理要領)
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
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