当社は、入浴施設のレジオネラ対策・配管洗浄と、業務用エアコンクリーニングの両方をやっています。
まったく違う仕事に見えるかもしれません。ただ、根拠になっている条文をたどると、この二つは同じところで交差しています。
最後の記事では、その接点を整理します。同時に、「エアコンからレジオネラが出る」という説明がどこまで正しいのかについても、正直に書きます。
厚生労働省告示第二百六十四号「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」は、対象となる設備を四つ挙げています。
入浴設備、空気調和設備の冷却塔、給湯設備、加湿器。
二番目と四番目が、空調の設備です。エアコンの話とレジオネラの話が、同じ告示の中に並んでいます。
指針の第一は、こう書いています。
多数の者が利用する公衆浴場、宿泊施設、旅客船舶等の施設又は高齢者、新生児及び免疫機能の低下を来す疾患にかかっている者が多い医療施設、社会福祉施設等においては、入浴設備、空気調和設備の冷却塔、給湯設備、加湿器等における衛生上の措置を徹底して講ずることが必要である。
浴場と空調が、同じ文のなかに並んでいます。
なぜこの四つが並ぶのか。感染の仕組みが同じだからです。
指針の記述を引用します。
レジオネラ属菌は、入浴設備、空気調和設備の冷却塔、給湯設備、加湿器等の水を使用する設備に付着する生物膜に生息する微生物の細胞内で大量に繁殖し、これらの設備から発生したエアロゾルを吸入することによって感染する。
条件は二つです。水があって生物膜ができること。そして、その水が細かい粒子になって空気中に出ること。
浴槽も、冷却塔も、加湿器も、この二つを満たします。
そして指針は、対策の基本を三つに整理しています。
一、微生物の繁殖及び生物膜等の生成の抑制
二、設備内に定着する生物膜等の除去
三、エアロゾルの飛散の抑制
空調設備の冷却塔は、ビル用の大型空調で使われる装置です。屋上にある、水が流れている四角い箱を見たことがあると思います。
指針の第三は、冷却塔についてこう述べています。
空気調和設備の冷却塔を発生源とするレジオネラ症は、国内では報告例は少ないが、海外では数多くの集団感染事例が報告されており、感染源として重視する必要がある。
そして、屋内への侵入経路についても書いています。
冷却塔からの排気に含まれるエアロゾルは、外気取入口や窓を介して屋内に侵入し、又は、地上に飛散することから、冷却塔の設置又は修繕を実施する場合は、エアロゾルの飛散を抑制するための措置を講ずる必要がある。
汚れる仕組みも説明されています。冷却塔内では冷却水が熱を放出して一部が蒸発するため、炭酸カルシウムやケイ酸マグネシウム等の塩類が濃縮されたスケールが充てん剤等に析出し、微生物が付着しやすい環境をつくる。さらに日射、酸素の供給、大気への開放と、微生物や藻類の繁殖に好適な環境になる。
だからスケールとスライムの生成を抑制し、除去することが必要だとしています。
構造設備上の措置としては、エアロゾルの放散量が少ない構造のものを採用すること、風向き等を考慮して外気取入口・居室の窓・人が活動する場所から十分距離を置くことが挙げられています。
維持管理上の措置は、次のとおりです。
冷却塔に供給する水を水道法第四条に規定する水質基準に適合させるため必要な措置を講ずること。
冷却塔の使用開始時及び使用期間中は一か月に一回以上、冷却塔及び冷却水の汚れの状況を点検し、必要に応じ、冷却塔の清掃及び換水等を実施するとともに、一年に一回以上、清掃及び完全換水を実施すること。また、必要に応じ殺菌剤等を冷却水に加えて微生物や藻類の繁殖を抑制すること。
この「一か月に一回以上の点検」「一年に一回以上の清掃」という数字は、第一回の記事で紹介した建築物衛生法施行規則の頻度と同じです。
指針の第五は、加湿器についての章です。
加湿器を発生源とするレジオネラ症は、国内では報告例は少ないが、新生児室、高齢者施設等における感染例が報告され、海外でも同様の事例が報告されており、感染源として留意することが必要である。
加湿器の種類は二つに分けられています。主に建築物の空気調和設備に組み込まれているもの(加湿装置)と、家庭等で使用される卓上用・床置き式のもの(家庭用加湿器)。
汚れる仕組みは、こうです。
加湿器では、タンク内等において生物膜が生成されることによって、レジオネラ属菌をはじめとする微生物が繁殖しやすくなる。
維持管理上の措置として、次が挙げられています。
加湿装置に供給する水を水道法第四条に規定する水質基準に適合させるため必要な措置を講ずること。
加湿装置の使用開始時及び使用期間中は一か月に一回以上、加湿装置の汚れの状況を点検し、必要に応じ加湿装置の清掃等を実施するとともに、一年に一回以上、清掃を実施すること。
加湿装置の使用開始時及び使用終了時に、水抜き及び清掃を実施すること。
家庭用加湿器のタンクの水は、毎日完全に換えるとともに、タンク内を清掃すること。
三つ目の「使用終了時の水抜き」は、シーズンを止めたあと水を残すな、という指示です。
ここまでで、同じ設備に同じ頻度を課している三つの文書が出てきました。
建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則。冷却塔・冷却水・加湿装置・排水受けの点検を一月以内ごとに一回、冷却塔・冷却水管・加湿装置の清掃を一年以内ごとに一回。
事務所衛生基準規則第九条の二。ほぼ同じ文言。
レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針。冷却塔と加湿装置について、一か月に一回以上の点検と一年に一回以上の清掃。
建築物の衛生を定める法令と、感染症を予防する指針が、同じ設備・同じ頻度で重なっています。偶然ではなく、同じ理由からです。
ここが、正直に書いておきたい部分です。
店舗や事務所で使われている業務用エアコンの多くは、直膨式のパッケージエアコンです。冷媒で直接空気を冷やす方式で、水を噴霧する仕組みはありません。
指針が名指ししているのは、冷却塔と加湿器です。パッケージエアコンの室内機は、名指しされていません。
ですから、「エアコンからレジオネラが出ます」と断定する説明を見たら、その根拠を確認したほうがよいと思います。少なくとも、告示がそう書いているわけではありません。
一方で、「まったく関係ない」と言い切るのも違います。
理由は二つあります。一つ、ドレンパンには常に水があり、生物膜ができます。そのすぐ上で送風ファンが回っていて、風が水面を撫でています。二つ、指針の第六には、次の記述があります。
入浴設備、空気調和設備の冷却塔、給湯設備及び加湿器以外であっても、エアロゾルを発生させる機器及び設備について、第一の二に基づき、適切な衛生上の措置を講ずることが必要である。
「以外であっても」と書かれています。四つの設備は例示であって、限定列挙ではないという読み方になります。
実務としては、こう整理しています。パッケージエアコンをレジオネラの主要な感染源として扱うのは行きすぎ。しかし、水と生物膜と送風がそろっている以上、衛生上の措置の対象からは外せない。
とくに、高齢者施設や医療機関のように、免疫機能の低下している方が利用する施設では、指針の第一が「徹底して講ずる」と書いている対象に当たります。
当社がこの二つを両方やっているのは、根っこが同じだからです。
どちらも、水のあるところにできた生物膜が相手です。浴槽の配管でも、冷却塔でも、加湿装置でも、エアコンのドレンパンでも、起きていることは同じです。細菌が表面に付着し、多糖類の膜をつくり、その中で増える。
対策の考え方も同じです。指針が分けて書いているとおり、生成の抑制と、定着したものの除去。この二つを別の作業として組み立てます。
洗浄で除去し、防カビ・防菌処理で抑制する。配管でもエアコンでも、順番は変わりません。
使う薬剤も、機材も、現場の段取りも違います。ただ、何を相手にしているかという点では、同じ仕事です。
最後に、実務的な優先順位を書いておきます。
入浴施設を併設しているホテル、スポーツクラブ、介護施設。ここは浴槽と配管が最優先です。空調は、冷却塔がある建物なら冷却塔を、加湿装置があるなら加湿装置を。パッケージエアコンはその次です。
医療機関、介護施設、保育施設。指針が名指ししている「高齢者、新生児及び免疫機能の低下を来す疾患にかかっている者が多い」施設です。加湿装置と冷却塔を優先し、エアコン本体もドレンパンまで含めて洗います。
事務所、店舗、飲食店。レジオネラのリスクは相対的に低くなります。優先すべきは、空気環境の維持(二酸化炭素と相対湿度)、匂いと見た目、そして省エネです。
どの施設でも共通なのは、ドレンパンと加湿装置の月次点検です。法令が求めている最低ラインであり、記録を残しておけば、あとから自分を守る材料になります。
厚生労働省告示第二百六十四号は、入浴設備、空気調和設備の冷却塔、給湯設備、加湿器の四つを並べています。浴場と空調は、同じ告示の中にあります。
感染経路は、生物膜で増えた菌を含むエアロゾルの吸入。だから水と送風がそろう設備が対象になります。
冷却塔は、国内での報告例は少ないものの、海外で数多くの集団感染事例が報告されており、感染源として重視する必要があるとされています。
加湿器についても、新生児室や高齢者施設等での感染例が報告されています。
建築物衛生法施行規則、事務所衛生基準規則、そして告示第二百六十四号が、同じ設備に同じ頻度(点検は月一回、清掃は年一回)を課しています。
パッケージエアコンの室内機は指針に名指しされていません。ただし指針第六は、四つの設備以外でもエアロゾルを発生させる機器・設備について措置を求めています。
株式会社雅堂は、入浴施設のレジオネラ対策・配管洗浄と、業務用エアコンの分解洗浄・防カビ施工の両方を扱っています。どちらも生物膜が相手です。
厚生労働省 レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針
建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
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