厨房の天井に黒い点が出た。保健所の立入で指摘された。衛生管理計画は作ってあるのに、なぜ。
この相談は、飲食店からも、食品工場からも、給食施設からも来ます。
答えを先に書きます。天井のカビは、HACCPの書類の問題ではなく、施設の構造と一般衛生管理の問題です。そして、その両方が法令に書かれています。
この記事では、食品衛生法と同法施行規則の条文から、食品を扱う現場のカビがどこに位置づけられているかを整理します。
食品衛生法第五十一条第一項は、厚生労働大臣が、営業の施設の衛生的な管理その他公衆衛生上必要な措置について、厚生労働省令で基準を定めるものとする、としています。掲げられているのは二つです。
施設の内外の清潔保持、ねずみ及び昆虫の駆除その他一般的な衛生管理に関すること。
食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組に関すること。
前者が一般衛生管理、後者がHACCPに沿った衛生管理です。そして同条第二項は、営業者は、前項の規定により定められた基準に従い、厚生労働省令で定めるところにより公衆衛生上必要な措置を定め、これを遵守しなければならない、としています。
そのうえで、営業施設そのものの基準が、食品衛生法施行規則の別表第十九に置かれています。そこに、こう書かれています。
食品等を取り扱う作業をする場所の真上は、結露しにくく、結露によるかびの発生を防止し、及び結露による水滴により食品等を汚染しないよう換気が適切にできる構造又は設備を有すること
「かび」という言葉が、法令の条文に入っています。
一つ、結露しにくいこと。
二つ、結露によるかびの発生を防止すること。
三つ、結露による水滴で食品を汚染しないこと。
そして求められているのは、掃除ではありません。構造又は設備です。
「真上」というのも重要です。調理台の上、まな板の上、盛り付け台の上。その上にあるのは天井、配管、ダクト、照明器具、フードです。そこが結露していれば、落ちる先は食品です。
別表第十九は、床面、内壁及び天井について、清掃、洗浄及び消毒を容易にすることができる材料で作られ、清掃等を容易に行うことができる構造であること、とも定めています。
掃除しにくい天井は、それ自体が基準を満たしていない可能性があります。
毎日の運用側の基準が、別表第十七です。カビに関係する項目を挙げます。
施設及びその周辺を定期的に清掃し、施設の稼働中は食品衛生上の危害の発生を防止するよう清潔な状態を維持すること。
施設内の採光、照明及び換気を十分に行うとともに、必要に応じて適切な温度及び湿度の管理を行うこと。
窓及び出入口は、原則として開放したままにしないこと。開放したままの状態にする場合にあつては、じん埃、ねずみ及び昆虫等の侵入を防止する措置を講ずること。
二つめに注目してください。湿度の管理が、一般衛生管理の基準に書かれています。
この「適切な温度及び湿度」に具体的な数値は示されていません。数値が法令に書かれているのは建築物衛生法や事務所衛生基準規則のほうで、そちらでは相対湿度四十パーセント以上七十パーセント以下とされています。食品の現場では、作業内容によって現実的な水準が変わるため、数値ではなく「適切な」という書き方になっています。
だからこそ、自分の現場でどこまでを適切とするかを決めて、記録することになります。
別表第十七は、そのほかに食品衛生責任者を定めることを求め、ねずみ及び昆虫について、一年に二回以上、駆除作業を実施し、その実施記録を一年間保存すること、と定めています。
HACCPに沿った衛生管理の基準は、別表第十八です。内容は次のとおりです。
危害要因の一覧表を作成し、これらを管理するための措置を定めること。
その発生を防止し、排除し、又は許容できる水準にまで低減するために管理措置を講ずることが不可欠な工程、すなわち重要管理点を決定すること。
個々の重要管理点における管理基準を設定すること。
モニタリングの方法を設定すること。
管理基準を逸脱したことが判明した場合の改善措置を設定すること。
措置の内容の効果を、定期的に検証するための手順を定めること。
営業の規模や業態に応じて、措置の内容に関する書面とその実施の記録を作成すること。
なお、政令で定める小規模な営業者については、その取り扱う食品の特性又は営業の規模に応じ、これらを簡略化して公衆衛生上必要な措置を行うことができる、とされています。飲食店の多くはこちらです。
ここで押さえておきたいのは、天井のカビは通常、重要管理点にはならないということです。
HACCPは工程を管理する仕組みです。加熱、冷却、金属検出といった工程に管理基準を置きます。施設のカビは、その土台となる一般衛生管理の側に属します。
だから「HACCPをやっているのにカビが出る」は、矛盾ではありません。管理している場所が違うだけです。そして一般衛生管理も、同じ第五十一条の基準の一部です。
食品の現場でカビと言うと、もうひとつ別の論点があります。原材料のカビ毒です。
食品衛生法第六条第二号は、有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるものの販売等を禁じています。
厚生労働省の通知は、総アフラトキシン(アフラトキシンB1、B2、G1及びG2の総和)を十μg/kgを超えて検出する食品は、食品衛生法第六条第二号に違反するものとして取り扱うこと、としています。
小麦については、デオキシニバレノールを一・〇mg/kgを超えて含有するものであってはならない、という成分規格が定められ、令和四年四月一日から適用されています。
ただし、これは原材料に由来するカビ毒の話です。厨房の壁や天井に生えたカビとは、経路が違います。混同しないでください。
壁のカビが直ちにカビ毒の問題になるわけではありません。一方で、胞子が食品に落ちれば異物混入であり、腐敗・変敗の原因にもなります。別表第十九が求めているのは、そちらの防止です。
当社が食品の現場で見てきた、カビの出やすい場所を挙げます。
排気フードの内側と、その周囲の天井。油分と水分と温度差がそろいます。
洗浄シンクの真上。湯気が当たり続けます。
製氷機と冷蔵庫の裏。結露と、掃除が届かないことの組み合わせです。
ダクトの吊り金物とその周辺。金属なので冷えます。
出入口の内側。夏場に外気が入り、冷えた壁で結露します。
そして、営業中に換気扇だけを回して給気がない厨房。室内が負圧になり、隙間から湿った空気を引き込みます。天井裏に回ることもあります。
洗浄のやり方が原因になっている場合もあります。閉店後に床を高圧で流し、水しぶきが天井まで届いて、そのまま朝まで乾かない。翌日また同じことをする。これで天井が濡れ続けます。
順番に書きます。
一つ、天井の材質を確認する。清掃、洗浄及び消毒を容易にすることができる材料かどうか。吸水する素材や、凹凸で拭けない素材なら、そこが根本の問題です。
二つ、真上を見る。調理台や盛り付け台の上に何があるか。配管の継ぎ目、照明の縁、ダクトの下面。
三つ、換気の経路を確認する。給気と排気が両方あるか。フィルターが詰まっていないか。営業中に室内が負圧になっていないか。
四つ、温湿度を測る。日に一度でも記録が残れば、季節による変化が見えます。
五つ、清掃の頻度を決めて記録する。別表第十七は多くの項目で記録を求めています。記録があると、指摘を受けたときに「やっている」を示せます。
六つ、洗浄方法を見直す。天井に水をかけない。かけたら拭く。
食品の現場に防カビ施工を入れる場合、一般の現場とは段取りが変わります。
作業は営業時間外に行います。
食品、器具、食器は事前に搬出するか、養生します。
使用する薬剤は、食品を扱う場所で使えるものを選びます。
塩素系の薬剤を使う場合は、換気と単独使用を徹底します。厨房には酸性の洗浄剤が必ずあるため、混ざる条件がそろいやすい場所です。この点は別の記事に詳しく書きました。
施工後は、食品に触れる面をすべて拭き取ります。
そして作業報告書を残します。施工前後の写真、範囲、使用薬剤、作業内容。保健所への説明にも、社内の記録にも使えます。
食品衛生法第五十一条第一項は、一般衛生管理とHACCPに沿った衛生管理の基準を厚生労働省令で定めるものとし、第二項は営業者にその遵守を義務づけています。
施行規則別表第十九は、食品等を取り扱う作業をする場所の真上について、結露しにくく、結露によるかびの発生を防止し、及び結露による水滴により食品等を汚染しないよう換気が適切にできる構造又は設備を有すること、と定めています。求めているのは掃除ではなく構造又は設備です。
同別表は、床面、内壁及び天井について、清掃、洗浄及び消毒を容易にすることができる材料で作られ、清掃等を容易に行うことができる構造であること、としています。
別表第十七は、施設内の採光、照明及び換気を十分に行うとともに、必要に応じて適切な温度及び湿度の管理を行うこと、を求めています。数値は示されていません。自分の現場で決めて記録することになります。
別表第十八のHACCPは工程を管理する仕組みです。天井のカビは通常、重要管理点ではなく一般衛生管理の側に属します。
原材料のカビ毒は別の論点です。総アフラトキシンは十μg/kg、小麦のデオキシニバレノールは一・〇mg/kgが基準です。
現場では、排気フードの内側、洗浄シンクの真上、製氷機や冷蔵庫の裏、ダクトの吊り金物、出入口の内側を見てください。給気のない換気と、天井まで届く高圧洗浄も原因になります。
株式会社雅堂では、飲食店・食品工場・給食施設の天井・壁のカビ取りと防カビ施工を行っています。営業時間外の作業、養生、薬剤の選定、施工後の拭き取り、作業報告書の作成まで対応します。現地調査では、カビの範囲だけでなく、結露・換気・洗浄方法のどれが原因かを見たうえでお伝えします。
お電話受付 9:00-20:00 / 080-7744-9636
小麦中のデオキシニバレノールに係る基準値の設定について(厚生労働省)
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月16日