「湿度は何パーセント以下にすればいいですか」
現地調査でよく聞かれます。
数字はあります。法令に書いてあります。ただ、その数字を満たしていてもカビは生えます。理由もはっきりしています。
この記事では、建築物衛生法・事務所衛生基準規則・学校環境衛生基準・建築基準法の条文から湿度と換気の基準を確認したうえで、なぜ基準内の部屋でカビが出るのかを説明します。
根拠は、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法)第四条です。同条の「政令で定める基準」が、同法施行令第二条に置かれています。建築物環境衛生管理基準と呼ばれるものです。
空気調和設備を設けている場合について、施行令第二条は次の表を掲げています。
浮遊粉じんの量は、空気一立方メートルにつき〇・一五ミリグラム以下。
一酸化炭素の含有率は、百万分の六以下。
二酸化炭素の含有率は、百万分の千以下。
温度は、十八度以上二十八度以下。あわせて、居室における温度を外気の温度より低くする場合は、その差を著しくしないこと。
相対湿度は、四十パーセント以上七十パーセント以下。
気流は、〇・五メートル毎秒以下。
ホルムアルデヒドの量は、空気一立方メートルにつき〇・一ミリグラム以下。
湿度の上限は七〇パーセント。これが、法令に書かれた数字です。
ただし、この基準がかかるのは特定建築物です。施行令第一条は、興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、旅館などの用途に供される部分の延べ面積が三千平方メートル以上の建築物、および学校等では八千平方メートル以上のものと定めています。
小さなテナントや一般の住宅は、この法律の直接の対象ではありません。
対象外だから基準がない、ということではありません。
労働安全衛生法に基づく事務所衛生基準規則の第五条第三項には、こうあります。
事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十八度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない
建築物衛生法と同じ数字です。ただし語尾が「努めなければならない」で、努力義務として書かれています。
学校については、学校保健安全法第六条に基づく学校環境衛生基準があります。教室等の環境について、温度は十八度以上二十八度以下であることが望ましい、相対湿度は三十パーセント以上八十パーセント以下であることが望ましい、二酸化炭素は千五百ppm以下であることが望ましい、としています。
学校の湿度は上限八〇パーセント。建築物衛生法より緩い設定です。
なお、温度の下限が十七度から十八度に改められたのは近年のことです。厚生労働省の資料は、その理由を、WHOが平成三十年に策定したガイドラインでは、冬期の高齢者における血圧上昇に対する影響等を考慮し、低温側の室内温度として十八度以上とすることが勧告された、と説明しています。
ここからが本題です。
施行規則は、測定の方法をこう定めています。
当該特定建築物の通常の使用時間中に、各階ごとに、居室の中央部の床上七十五センチメートル以上百五十センチメートル以下の位置において
測定の頻度は、二月以内ごとに一回です。
読み返してください。測っているのは、部屋の中央の、床から七十五センチから百五十センチの高さの空気です。
カビが生えるのは、そこではありません。北側の壁の表面、窓まわり、部屋の隅、家具の裏、押入れの内側。どれも測定点から離れた場所です。
相対湿度は、その場所の温度に対する割合です。同じ空気でも、温度が下がれば相対湿度は上がります。
室温二十二度、相対湿度六十パーセントの部屋を考えます。この空気の露点は約十三・九度です。
つまり、壁の表面温度が十四度を下回った瞬間、その表面では結露が始まります。部屋の中央では六十パーセント。法令の基準内です。それでも壁は濡れます。
室温二十度・相対湿度五十パーセントなら露点は約九・三度。かなり乾いた部屋ですが、冷たい金属の配管や窓のサッシはこの温度まで下がります。
厨房に近い店舗の壁で、室温二十五度・相対湿度七十パーセントなら、露点は約十九・一度です。この条件では、少し冷えた壁面ならどこでも結露します。
結露が起きなくても、表面の相対湿度が高い状態が続けばカビは育ちます。カビの多くは相対湿度八十パーセント前後から活動します。壁の表面だけがその条件になっている、という現場を当社は何度も見ています。
だから、部屋の真ん中で測った湿度は、カビの話の答えになりません。必要なのは、カビが出ている場所の表面温度と、その場所の空気の露点です。
湿度と並ぶもう一方が換気です。
建築基準法第二十八条の二第三号と、同法施行令第二十条の八が、シックハウス対策として居室の機械換気設備の基準を定めています。必要有効換気量の計算に用いる一時間当たりの換気回数は、住宅等の居室にあっては〇・五、その他の居室にあっては〇・三と規定されています。
住宅なら一時間に部屋の空気の半分が入れ替わる、という設計です。二〇〇三年以降の建物には、この換気設備が付いています。
問題は、それが動いているかどうかです。
給気口が家具でふさがれている。フィルターが目詰まりしている。二十四時間換気のスイッチが切られている。当社が現場で確認すると、この三つのどれかであることが多いです。
換気は、給気と排気の両方がそろって成立します。排気だけ回しても、入ってくる空気の道がなければ流れません。カビの出ている部屋で換気扇が回っているのに湿気が抜けない場合、まず給気側を見てください。
もうひとつ、見落とされやすい経路があります。空調設備の内部です。
事務所衛生基準規則第九条の二は、空気調和設備を設けている場合に、病原体によって室の内部の空気が汚染されることを防止するため、次の措置を義務づけています。
冷却塔及び加湿装置に供給する水を、水道法第四条に規定する水質基準に適合させるため必要な措置。
冷却塔及び冷却水について、使用開始時および使用を開始した後、一月以内ごとに一回、定期に、その汚れの状況を点検し、必要に応じ、その清掃及び換水等を行うこと。
加湿装置について、同じく一月以内ごとに一回の点検と、必要に応じた清掃。
空気調和設備内に設けられた排水受けについて、同じく一月以内ごとに一回、その汚れ及び閉塞の状況を点検し、必要に応じた清掃。
そして、冷却塔、冷却水の水管及び加湿装置の清掃を、それぞれ一年以内ごとに一回、定期に、行うこと。
排水受け、つまりドレンパンです。ここが詰まると水があふれ、天井裏や壁の内側が濡れます。天井のカビの原因が空調のドレンだった、という現場は少なくありません。
同規則は、機械による換気のための設備について、はじめて使用するとき、分解して改造又は修理を行なつたとき、及び二月以内ごとに一回、定期に、異常の有無を点検し、その結果を記録して、これを三年間保存しなければならない、とも定めています。
点検の記録を三年。この記録があると、原因の切り分けが早く終わります。
当社が現地調査で見るのは、次の三つです。
一つ、室内の温度と相対湿度。これは部屋の中央でも構いません。基準との比較に使います。
二つ、カビが出ている面の表面温度。放射温度計で測ります。
三つ、その室内空気の露点。温湿度から計算します。
表面温度が露点を下回っていれば、結露です。上回っていても差が小さければ、表面の相対湿度が高い状態が続いています。どちらも、原因は温度差か湿気の供給量です。
測るだけなら、市販の温湿度計と放射温度計でもできます。ご自身で確認される場合は、朝いちばん、暖房を入れる前の時間帯を勧めます。表面温度がいちばん下がっている時間です。
カビの出ている現場で、手を打つ順番があります。
一番目、水の供給を止める。雨漏り、配管からの漏水、地面からの湿気、洗濯物の室内干し、加湿器の使いすぎ。これが残っていると、あとの手はすべて効きません。
二番目、換気を通す。給気口を開ける。家具をどける。フィルターを洗う。二十四時間換気を止めない。
三番目、表面温度を上げる。断熱の問題です。工事になる場合もありますが、家具を壁から数センチ離すだけで表面温度が変わることもあります。空気が動くようになるからです。
四番目、除湿する。除湿機やエアコンの除湿運転。ただし、これは一番目から三番目をやったうえでの補助です。
五番目、カビを除去して防カビ施工をする。表面の処理は最後です。
順番を逆にすると、同じ工事を繰り返すことになります。当社が現地調査で原因の話を先にするのは、そのためです。
建築物衛生法施行令第二条は、空気調和設備を設けている場合の相対湿度を四十パーセント以上七十パーセント以下、温度を十八度以上二十八度以下と定めています。対象は延べ面積三千平方メートル以上の特定建築物です。
事務所衛生基準規則第五条第三項は、同じ数字を努力義務として事業者に課しています。
学校環境衛生基準は、温度十八度以上二十八度以下、相対湿度三十パーセント以上八十パーセント以下が望ましいとしています。
測定位置は、各階ごとに居室の中央部の床上七十五センチメートルから百五十センチメートル。二月以内ごとに一回です。部屋の中央の空気であって、壁の表面ではありません。
相対湿度は温度に依存します。室温二十二度・相対湿度六十パーセントの露点は約十三・九度。壁の表面が十四度を下回れば、基準内の部屋でも結露します。
建築基準法施行令第二十条の八は、機械換気設備の換気回数を住宅等の居室で〇・五、その他の居室で〇・三と定めています。設備があっても、給気口がふさがれていれば流れません。
事務所衛生基準規則第九条の二は、冷却塔・加湿装置・排水受けの一月以内ごとの点検と、一年以内ごとの清掃を義務づけています。天井のカビの原因が空調のドレンだった、という現場は珍しくありません。
手を打つ順番は、水を止める、換気を通す、表面温度を上げる、除湿する、そのうえで防カビ施工です。
株式会社雅堂では、天井・壁・店舗のカビ取りと防カビ施工を行っています。現地調査では、室内の温湿度に加えて、カビの出ている面の表面温度と露点を確認し、結露・漏水・換気のどれが原因かをお伝えします。断熱や設備の工事が先だと判断した場合は、そのようにお伝えします。
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建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令(e-Gov法令検索)
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執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月16日