「エアコンは汚れたら掃除するもの」。そう考えている施設の担当者は多いと思います。家庭用ならそれで構いません。しかし業務用の空調設備、とくにビル・店舗・事務所に設置されたものについては、掃除と点検の頻度そのものが法令で決まっています。
判断の基準が「汚れているかどうか」ではなく「前回からどれだけ経ったか」に変わる。ここが家庭用と業務用の、いちばん大きな違いです。
この記事では、業務用空調にかかる二つの法令が、何を、いつまでに、どうしろと定めているのかを条文に沿って整理します。数字はすべて現行の条文から取っています。
業務用空調の管理を縛る法令は、大きく二つに分かれます。
一つは建築物衛生法(正式名称は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」)。これは一定規模以上の建物、いわゆる特定建築物が対象です。
もう一つは事務所衛生基準規則。こちらは労働安全衛生法にもとづく厚生労働省令で、面積に関係なく、労働者が働く事務所であれば対象になります。
つまり「うちは小さいビルだから建築物衛生法の対象外だ」という事業所でも、事務所衛生基準規則からは逃れられません。まずここを取り違えないことが出発点です。
建築物衛生法施行令第一条は、特定建築物に該当する用途を四つ挙げています。
一、興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館又は遊技場
二、店舗又は事務所
三、第一条学校等以外の学校(研修所を含む。)
四、旅館
これらの用途に使われる部分の延べ面積が3,000平方メートル以上であれば、特定建築物になります。学校教育法第一条に規定する学校(小中高・大学など)の場合は8,000平方メートル以上です。
該当すれば、所有者等には建築物環境衛生管理基準を守る義務が生じ、建築物環境衛生管理技術者、いわゆるビル管理技術者の選任も必要になります。
建築物衛生法施行令第二条は、空気調和設備を設けている場合に居室が満たすべき基準を、表の形で七項目定めています。条文の数字をそのまま書き出します。
一、浮遊粉じんの量 空気一立方メートルにつき〇・一五ミリグラム以下
二、一酸化炭素の含有率 百万分の六以下
三、二酸化炭素の含有率 百万分の千以下
四、温度 十八度以上二十八度以下(居室における温度を外気の温度より低くする場合は、その差を著しくしないこと)
五、相対湿度 四十パーセント以上七十パーセント以下
六、気流 〇・五メートル毎秒以下
七、ホルムアルデヒドの量 空気一立方メートルにつき〇・一ミリグラム以下
百万分の六とは6ppm、百万分の千とは1,000ppmのことです。一酸化炭素の6ppmと温度の下限18度は、令和四年四月の改正で変わった数字です。それ以前は一酸化炭素が10ppm、温度の下限が17度でした。古い資料を参照していると、ここでずれます。
なお機械換気設備しか設けていない場合は、温度・相対湿度を除く五項目(浮遊粉じん、一酸化炭素、二酸化炭素、気流、ホルムアルデヒド)が対象になります。温度と湿度を調節する能力がない設備に、温湿度の基準は課さないという整理です。
基準を定めただけでは、守られているかどうかが分かりません。そこで施行規則は、測定の頻度も決めています。
空気環境の測定は、二か月以内ごとに一回、定期に行うこと。空気調和設備を設けている場合は先ほどの表の第一号から第六号まで、機械換気設備の場合は第一号から第三号までと第六号が対象です。
ホルムアルデヒドだけは扱いが違います。建築、大規模の修繕、大規模の模様替えを行った場合に、その使用を開始した日以後最初に到来する六月から九月までの期間に一回、測定します。新しい内装材から出るホルムアルデヒドは、気温の高い時期に濃度が上がるためです。
二か月以内ごとに一回、というのは年に六回です。この六回の記録が、後述する帳簿書類の中心になります。
ここからが、この記事の本題です。施行規則は、病原体によって居室の空気が汚染されることを防ぐための措置として、次の頻度を定めています。
冷却塔及び冷却水について、当該冷却塔の使用開始時及び使用を開始した後、一月以内ごとに一回、定期に、その汚れの状況を点検し、必要に応じ、その清掃及び換水等を行うこと。
加湿装置について、当該加湿装置の使用開始時及び使用を開始した後、一月以内ごとに一回、定期に、その汚れの状況を点検し、必要に応じ、その清掃等を行うこと。
空気調和設備内に設けられた排水受け(ドレンパン)について、当該排水受けの使用開始時及び使用を開始した後、一月以内ごとに一回、定期に、その汚れ及び閉塞の状況を点検し、必要に応じ、その清掃等を行うこと。
冷却塔、冷却水の水管及び加湿装置の清掃を、それぞれ一年以内ごとに一回、定期に、行うこと。
整理すると、点検は一か月以内ごとに一回、清掃は一年以内ごとに一回です。
そして点検の対象に、冷却塔・加湿装置と並んで排水受け、つまりドレンパンが名指しされています。エアコン内部の部品で条文に固有名詞として登場するのは、このドレンパンです。ここは、あとの記事で詳しく扱います。
見落とされやすいのが「当該冷却塔の使用開始時及び使用を開始した後」という書き方です。
シーズンの頭に一回。そこから一か月以内ごとに一回。これが条文の要求です。冷房を六月に立ち上げるなら、六月の立ち上げ時点で一回目の点検があり、七月、八月、九月と続きます。
逆に、一月を超える期間使用しない冷却塔については、その使用しない期間中は点検しなくてよい、というただし書きが付いています。冬季に止めている冷却塔まで毎月見に行く必要はない、という意味です。ただし翌シーズンの立ち上げ時には、改めて使用開始時の点検が必要になります。
この「立ち上げ時に一回」を落とすと、書類上はシーズン初月の記録が空白になります。立入検査で最初に見つかるのは、たいていこの空白です。
施行規則第二十条は、特定建築物の所有者等に対して帳簿書類を備えることを義務づけています。
第一号として挙げられているのが、空気環境の調整、給水及び排水の管理、清掃並びにねずみ等の防除の状況を記載した帳簿書類です。括弧書きで「これらの措置に関する測定又は検査の結果並びに当該措置に関する設備の点検及び整備の状況を含む」と明記されています。
測定結果だけでなく、点検と整備の状況まで帳簿の対象です。そして同条第二項で、この帳簿書類は五年間保存しなければならないと定められています。
清掃をやったのに記録がない、というのは、法令上は清掃をやっていないのと同じ扱いになります。作業そのものと同じだけ、記録に手間をかける必要があります。
ここまでが建築物衛生法の話です。3,000平方メートルに届かない建物には適用されません。
しかし、労働者が働く事務所であれば事務所衛生基準規則が別途かかります。こちらには面積要件がありません。テナントで入っている小さな事務所でも対象です。
第五条は、空気調和設備または機械換気設備を設けている場合に、供給される空気が次に適合するよう設備を調整しなければならないと定めています。
浮遊粉じん量が、〇・一五ミリグラム以下であること。
一酸化炭素及び二酸化炭素の含有率が、それぞれ百万分の十以下(外気が汚染されているために、一酸化炭素の含有率が百万分の十以下の空気を供給することが困難な場合は、百万分の二十以下)及び百万分の千以下であること。
ホルムアルデヒドの量が、〇・一ミリグラム以下であること。
加えて第二項で、室の気流を〇・五メートル毎秒以下とすること。第三項で、室の気温が十八度以上二十八度以下、相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるよう努めること、と定めています。
一酸化炭素の数字が、建築物衛生法の6ppmに対してこちらは10ppmです。法令が違えば数字も違う。同じ建物の中で両方が適用される場面もあるので、厳しいほう、つまり6ppmに合わせて管理するのが実務では安全です。
第九条の二は、空気調和設備を設けている場合の措置として、建築物衛生法とほぼ同じ内容を定めています。
冷却塔及び加湿装置に供給する水を、水道法第四条に規定する水質基準に適合させるため必要な措置。
冷却塔及び冷却水について、使用開始時及び使用を開始した後、一月以内ごとに一回、定期に、その汚れの状況を点検し、必要に応じ、その清掃及び換水等を行うこと。
加湿装置について、使用開始時及び使用を開始した後、一月以内ごとに一回、定期に、その汚れの状況を点検し、必要に応じ、その清掃等を行うこと。
排水受けについて、使用開始時及び使用を開始した後、一月以内ごとに一回、定期に、その汚れ及び閉塞の状況を点検し、必要に応じ、その清掃等を行うこと。
冷却塔、冷却水の水管及び加湿装置の清掃を、それぞれ一年以内ごとに一回、定期に、行うこと。
文言までほぼ同じです。二つの法令が、同じ設備に同じ頻度を課している。それだけこの頻度に根拠があるということでもあります。
事務所衛生基準規則第七条は、中央管理方式の空気調和設備を設けている建築物の室について、二月以内ごとに一回、定期に測定することを求めています。
測定項目は一酸化炭素及び二酸化炭素の含有率、室温及び外気温、相対湿度です。
そして測定を行ったときは、そのつど記録して、これを三年間保存しなければならないと定められています。建築物衛生法の帳簿が五年、事務所衛生基準規則の測定記録が三年。保存期間が違う点に注意してください。
両方の対象になる建物では、長いほう、つまり五年で揃えておくのが管理上は簡単です。
ここまで読んだ方は、ある違和感に気づいたかもしれません。
条文が名指ししているのは、冷却塔、冷却水の水管、加湿装置、排水受けの四つです。エアコンクリーニングで実際にいちばん汚れる場所、つまり熱交換器(アルミフィン)と送風ファン(シロッコファン、クロスフローファン)は、条文に固有名詞としては登場しません。
だからといって、洗わなくてよいわけではありません。
法令が求めているのは結果です。建築物衛生法施行令第二条は、浮遊粉じん、二酸化炭素、気流といった空気環境の基準に適合させることを求めています。熱交換器が目詰まりして風量が落ちれば、換気量が確保できず二酸化炭素が上がります。送風ファンにほこりが堆積すれば、同じ回転数でも風が出なくなります。基準に適合させるという義務を果たすために、結果として熱交換器とファンを洗う必要が出てくる、という構造です。
言い換えれば、条文に書かれた四つは最低ラインであって、上限ではありません。
実務でいちばん多い不適合は、二酸化炭素の1,000ppm超過です。
二酸化炭素は人が出します。だから在室人数が増えれば上がる。しかし同じ人数でも、去年は超えなかったのに今年は超える、ということが起きます。
この場合、増えたのは人ではなく、設備側の抵抗です。外気取入口のフィルターが詰まっている、全熱交換器のエレメントが目詰まりしている、送風ファンにほこりが堆積して風量が落ちている。どれも点検・清掃で戻ります。
逆に、こうした汚れを放置したまま換気設備を増設しても、効きません。まず洗う。洗ってから測る。それでも足りなければ設備を足す。この順番を逆にすると、費用だけがかかります。
建築物衛生法では、都道府県知事が特定建築物の所有者等に対して報告を求め、立入検査を行うことができます。基準に適合していない場合には改善命令の対象になり、命令に従わない場合は罰則が適用されます。
事務所衛生基準規則は労働安全衛生法にもとづく省令ですので、違反は労働基準監督署の是正勧告の対象になります。
ただ、実務でより痛いのは罰則そのものよりも、入居テナントや利用者からのクレーム、そして事故が起きたときに「法定の点検をしていなかった」という事実が残ることです。記録は、自分を守るために残します。
ここまでの内容を、年間のスケジュールに落とすとこうなります。
空気環境測定は二か月以内ごとに一回、年六回。奇数月なら奇数月と、月を固定して回すと抜けません。
冷却塔・冷却水・加湿装置・ドレンパンの点検は、使用開始時に一回、その後は一か月以内ごとに一回。冷房期と暖房期それぞれの立ち上げ月を、カレンダーに先に書き込みます。
冷却塔・冷却水管・加湿装置の清掃は一年以内ごとに一回。前回実施日から十二か月を超えないよう、前倒し気味に組みます。
熱交換器と送風ファンの洗浄は法定頻度がないので、空気環境測定の数値と、実際の汚れ方から決めます。飲食店の厨房まわりや、喫煙室に近い系統は早く汚れます。
繁忙期を避けることも大事です。営業を止めずに洗う段取りについては、別の記事で扱います。
「フィルター掃除をしているから大丈夫」。フィルターは法令上の点検対象ではありません。もちろん掃除は必要ですが、それをもって法定点検を実施したことにはなりません。
「業者に任せているから大丈夫」。清掃を委託していても、帳簿を備え五年間保存する義務は所有者等にあります。作業報告書を受け取って保管するところまでが管理です。
「ビル管理会社が全部やっている」。契約範囲を確認してください。空気環境測定は入っていても、ドレンパンの月次点検が入っていない契約は珍しくありません。
「去年洗ったから今年はいい」。冷却塔・冷却水管・加湿装置は一年以内ごとに一回です。「去年洗った」ではなく「前回から何か月経ったか」で判断します。
業務用空調の清掃と点検には、法令で決められた頻度があります。
建築物衛生法(延べ面積3,000平方メートル以上の特定建築物)と事務所衛生基準規則(面積要件なし)の二つが、それぞれ基準を定めています。
空気環境の測定は二か月以内ごとに一回。
冷却塔・冷却水・加湿装置・排水受け(ドレンパン)の点検は、使用開始時および一か月以内ごとに一回。
冷却塔・冷却水の水管・加湿装置の清掃は、一年以内ごとに一回。
帳簿書類の保存は建築物衛生法で五年間、事務所衛生基準規則の測定記録は三年間。
条文が名指ししていない熱交換器と送風ファンも、空気環境の基準を満たすためには洗う必要があります。法令の頻度は最低ラインです。
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執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
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