エアコンクリーニングは、汚れを落とす作業です。同時に、電気製品の内部に大量の水をかける作業でもあります。
この二つ目の側面が、事故として表に出ています。製品評価技術基盤機構(NITE)は2020年6月、エアコンの内部洗浄による事故について注意喚起を出しました。件数も、原因も、公表されています。
この記事では、その公表資料をもとに、何が起きているのか、どこに気をつければよいのかを整理します。脅かすためではなく、業者を選ぶときの判断材料にしていただくためです。
NITEの注意喚起は、まずエアコン全体の事故件数から始まります。
2015年度から2019年度の5年間に合計263件発生し、うち火災が244件、死亡事故が6件(7名)。
エアコンの事故のうち、九割以上が火災です。そして5年間で7名が亡くなっています。エアコンは、火が出る家電です。
この263件には、設置不良、経年劣化、異物混入など、さまざまな原因のものが含まれます。そのうち内部洗浄に起因するものが、次の数字です。
同じ資料に、こうあります。
内部洗浄に起因する事故は、2019年度までの5年間に20件発生。
年に4件ペースです。全国で報告されたものだけの数字ですから、実際にはもっと多いと考えるのが自然でしょう。
20件という数字は、エアコン洗浄という作業が、本質的に危険を含んでいることを示しています。問題は、その危険が「洗い方」でほぼ決まるという点です。
NITEは、事故の原因をこう書いています。
エアコンを洗浄した際、エアコンの内部配線端子部分に洗浄液が付着したため、端子部でトラッキング現象が発生し、異常発熱が生じて出火。
トラッキング現象というのは、電気を通す二つの端子の間に、水分やほこりが橋を架けてしまう現象です。
本来は空気で絶縁されている隙間に、導電性のある液体が入り込む。そこに電流が流れると、微小な放電が起きます。放電は表面を炭化させ、炭化した部分はさらに電気を通しやすくなります。
これが繰り返されると、導電路が育っていきます。ある時点で発熱が絶縁物の耐熱を超え、発火に至る。
重要なのは、洗浄した直後には何も起きないことがある、という点です。炭化が進むには時間がかかります。洗った日は問題なく動いていたのに、数日後、数週間後に出火する。これがこの事故の怖いところです。
洗浄液が電気部品にかかった時点で、事故はもう始まっている。そう考えたほうが実態に近いと思います。
注意喚起の呼びかけの部分に、はっきりした記述があります。
消毒用アルコールなどの可燃性の溶液や、次亜塩素酸ナトリウムなど腐食性のある溶液で内部の掃除をするのはやめてください。
二種類が名指しされています。
一つは可燃性の溶液。消毒用アルコールがその代表です。カビ対策のつもりでエアコン内部にアルコールを吹くと、通電時のわずかな火花で引火する危険があります。送風ファンが回れば、蒸気は内部全体に回ります。
もう一つは腐食性の溶液。次亜塩素酸ナトリウム、いわゆる塩素系漂白剤です。アルミフィンや銅管、ビス、基板の端子を腐食させます。すぐには壊れません。半年後、一年後に冷媒漏れや接触不良として出てきます。
どちらも「よく効きそうだから」という理由で選ばれがちな薬剤です。効きます。ただし、エアコンにも効いてしまう。
なお、当社では中性から弱アルカリ性の専用洗浄剤を使い、塩素系・アルコール系はエアコン内部には使いません。
そして、NITEの呼びかけの一つ目はこうです。
エアコンの内部洗浄は、正しい知識を持った業者に依頼してください。
ここまでは家庭用も業務用も共通の話です。業務用の天井カセット型や天吊り型には、さらに条件が加わります。
まず電源です。業務用機の多くは三相200Vで、分電盤のブレーカーも別系統です。誰がいつ落とすのか、作業前に決めておかないと、洗浄中に誰かが上げてしまうという事故が起こり得ます。
次に基板の位置です。天井カセット型は、電装ボックスが本体側面の上部にあります。下から高圧洗浄機で吹き上げる作業ですから、跳ね返った水が上方向に飛ぶ。養生の考え方が、家庭用の壁掛け機とは変わります。
それからドレンポンプです。天井カセット型は排水を自然落下させられないので、内部のポンプで汲み上げています。このポンプとフロートスイッチが水没したり、洗浄で剥がれたスライムが詰まったりすると、天井から水が落ちます。洗浄の翌日に漏水、という事故はここが原因です。
最後に台数です。事務所や店舗には同じ機種が何台も並んでいます。一台目で問題がなかった手順が、設置環境の違う二台目で問題を起こす。一台ごとに養生をやり直す必要があります。
エアコン洗浄で最も時間がかかるのは、実は洗う作業ではなく養生です。
天井や壁を汚さないためのビニール掛けは、養生の一部にすぎません。本当に守らなければならないのは、電装ボックス、基板、配線端子、モーターの端子部、リモコン受光部、センサー類です。
ここに水をかけないための養生は、外から見えません。作業報告の写真に写るのも、たいていは床と壁の養生です。
見積書や作業説明で「電装部の養生」に触れているかどうかは、業者を判断するひとつの手がかりになります。
具体的には、次の場所です。
電装ボックスの内部(制御基板、端子台、コネクタ)
ファンモーターの端子部とリード線の接続部
ルーバーモーター、フロートスイッチ、ドレンポンプの端子部
室内機の温度センサー、人感センサーの端子部
リモコン受光部の基板
このうち、洗浄後に外から目視できるのはごく一部です。だから「かかっていないこと」を確認するのではなく、「かからない手順」で作業する必要があります。
洗浄剤を使った以上、すすぎが不十分なら成分は内部に残ります。
残った洗浄成分は吸湿します。吸湿した部分はほこりを吸着します。ほこりと水分がそろえば、前述のトラッキングの条件に近づきます。
また、アルカリ性の洗浄剤が残ったアルミフィンは、時間をかけて白く腐食します。熱交換能力が落ち、次のシーズンに「洗ったのに効かない」という話になります。
すすぎに使う水の量は、洗浄剤の量ではなく、機体の大きさで決まります。業務用の天井カセット型で、家庭用と同じ水量では足りません。
NITEの事故事例が示しているのは、水分が残った状態での通電が引き金になる、ということです。
洗浄後は、送風運転で内部を乾かします。ただし、送風運転そのものが通電です。だから乾燥運転に入る前に、電装部が濡れていないことを確認する工程が要ります。
当社では、洗浄後に電装部を確認し、必要に応じて自然乾燥の時間を取ってから通電します。作業時間が機種により90分から180分ほどかかるのは、この工程を含んでいるためです。
「30分で終わります」という見積りは、この工程を飛ばしている可能性があります。
火災だけではありません。国民生活センターは2025年2月、ハウスクリーニングのトラブルについて注意喚起を公表しています。
公表された相談事例には、クリーニング中にエアコンを破損され、修理を約束されたのに一か月後も連絡がつかなくなった、というものがあります。
また、換気扇クリーニングの勧誘で訪問した業者に、風呂場・洗面所・トイレも次々に提案され、相場がわからないまま約60万円で契約してしまった、という事例も挙げられています。
埼玉県の消費生活相談の事例にも、作業当日になって想定より高い金額を請求された、追加作業を提案されて大幅な上乗せが発生した、というものがあります。
国民生活センターのアドバイスは、複数社から見積もりを取ること、事業者の選定は慎重に行うこと、契約前に補償の内容や保険の加入状況を確認することです。
公的機関の注意喚起と、現場の実感から、確認すべき点を五つに絞ります。
一つ、洗浄剤の種類を答えられるか。塩素系やアルコールをエアコン内部に使っていないか。
二つ、電装部の養生について説明できるか。どこを、何で覆うのかを具体的に言えるか。
三つ、作業時間の目安。機種にもよりますが、業務用の分解洗浄で一台30分は短すぎます。
四つ、賠償保険に加入しているか。破損時の対応が契約書または見積書に書かれているか。
五つ、追加料金の条件が事前に明示されているか。「現地で見てから」だけの見積りは危険です。
市販のエアコン洗浄スプレーがある以上、自分で洗いたいという方もいると思います。
安全にできるのは、フィルターの取り外し洗浄と、外装カバーの拭き取りまでです。ここまでなら電気部品に触れません。フィルター清掃は効果も大きく、省エネにも直結します。
アルミフィンから奥、つまり熱交換器の内部と送風ファンは、電装部に洗浄液が回る構造上の理由から、分解せずに洗うことができません。市販スプレーの多くは、すすぎの工程がないまま内部に成分を残します。
そして繰り返しになりますが、NITEが名指ししているとおり、可燃性の溶液と腐食性の溶液は内部に使ってはいけません。
エアコンの事故は、2015年度からの5年間で263件、うち火災が244件、死亡事故が6件(7名)。
このうち内部洗浄に起因する事故は、同じ5年間で20件。
原因は、洗浄液が内部配線端子部分に付着してトラッキング現象が起き、異常発熱して出火するというものです。
洗浄直後ではなく、時間が経ってから発火する場合があります。
NITEは、可燃性の溶液(消毒用アルコール等)と腐食性の溶液(次亜塩素酸ナトリウム等)を内部の掃除に使わないよう呼びかけています。
そして、内部洗浄は正しい知識を持った業者に依頼するよう求めています。
業務用機は電源系統、基板の位置、ドレンポンプ、台数という点で、家庭用よりも条件が厳しくなります。
株式会社雅堂では、業務用エアコンの分解洗浄を、電装部の養生と洗浄後の乾燥確認を含めた手順で行っています。作業時間は機種により90分から180分ほどです。ご相談はお気軽にどうぞ。
製品評価技術基盤機構(NITE) エアコンの内部洗浄による事故に注意
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
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