「かけ流しだから大丈夫」とは、どこにも書かれていない
温泉施設や旅館の方とお話ししていると、「うちはかけ流しだから、レジオネラは関係ない」と言われることがあります。循環させていないのだから、配管の中で菌が増える余地はない、という理屈です。気持ちは分かります。ただ、公的な文書を読み直すと、そういう整理にはなっていません。
結論:法令に「かけ流し」という区分はない
厚生労働省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」にも、「公衆浴場における衛生等管理要領」にも、「かけ流し」という言葉は出てきません。
代わりに使われているのは、「ろ過器を使用していない浴槽水」「毎日完全に換水している浴槽水」という言い方です。行政が見ているのは湯の出し方の呼び名ではなく、ろ過器があるかどうか、毎日換えているかどうか、という事実だけです。かけ流しを名乗っていても、この二つが満たされていなければ、扱いは変わりません。
指針が原則としているのは「毎日完全に換える」こと
指針は、浴槽水の扱いについてこう書いています。
「浴槽水は、毎日、完全に換えることが原則であり」
毎日換えることが原則で、換えられない場合にろ過と消毒で補う。これが指針の組み立てです。かけ流しは、この原則をすでに構造として満たしている形です。そこは有利な点です。ただし、原則を満たしていることと、対策が要らないことは、別の話です。
危ないのは浴槽ではなく、源泉から浴槽までの間
かけ流しの施設でも、源泉が浴槽の真上から落ちているわけではありません。多くの場合、源泉と浴槽の間には、引湯管、湯だめ、貯湯槽、熱交換器、加水や加温の設備、そして枝分かれした配管があります。
この区間は、湯が流れっぱなしではありません。夜間は止まります。使っていない浴室に向かう枝管には、湯が残ったままになります。源泉の温度が高くても、浴槽に届くまでの間に下がります。
レジオネラが増えるのは、この「下がって、止まっている」区間です。浴槽の湯が常に入れ替わっていることは、その手前で何が起きているかについては、何も保証してくれません。
指針も、貯湯槽については「湯温を六十度以上に保つなど貯湯槽内でレジオネラ属菌が繁殖しないようにすること。また、定期的に貯湯槽内の生物膜の除去を行うための清掃及び消毒を行うこと」としています。循環式かどうかは、ここには書かれていません。
原湯・原水にも、菌の基準がある
見落とされやすいのが、浴槽に入る前の湯と水にも基準がある、という点です。
管理要領は、原湯・原水・上がり用湯・上がり用水について、「レジオネラ属菌は、検出されないこと(10cfu/100mL 未満)」としています。浴槽水と同じ値です。
かけ流しの施設では、浴槽水の質は原湯の質でほぼ決まります。逆に言えば、原湯の段階で出ているものは、浴槽でもそのまま出ます。浴槽水だけを検査して安心するのではなく、出どころを見る必要があります。
ろ過器がなくても、検査は年一回以上
管理要領は、検査の頻度について「ろ過器を使用していない浴槽水及び毎日完全に換水している浴槽水は、一年に一回以上」と定めています。
ろ過器がないから検査しなくていい、ではありません。頻度が年一回でよい、という意味です。免除ではなく緩和です。
指針のほうも「浴槽水は、少なくとも一年に一回以上、水質検査を行い、レジオネラ属菌に汚染されていないか否かを確認すること」と書いたうえで、汚染される可能性が高い場合には検査の頻度を高めること、としています。
塩素が使えない温泉は、むしろ検査が増える
ここが、かけ流しの施設にとっていちばん重要なところかもしれません。
管理要領は、塩素消毒によらない場合の検査頻度を「一年に四回以上」としています。年一回ではなく、年四回です。
泉質の関係で塩素が使えない温泉は珍しくありません。硫黄泉、酸性泉、鉄分の多い泉質などです。その場合は、消毒で抑えられない分を検査の回数で補う組み立てになっています。塩素を入れていないことは、検査を減らす理由ではなく、増やす理由です。
「温泉水は基準を適用しないことができる」の読み方
管理要領には、次のような一文もあります。
「温泉水又は井戸水を使用するものであるため、この基準により難く、かつ、衛生上危害を生じるおそれがないときは、基準の一部又は全部を適用しないことができる」
これを「温泉は対象外」と読む方がいますが、条件が二つ付いています。基準によることが難しいこと。そして、衛生上危害を生じるおそれがないこと。後者を示せるのは、結局のところ検査結果と管理の記録です。適用しないという判断を支えるために、かえって資料が要ります。
かけ流しの施設で、実際に確認したいこと
源泉から浴槽までの経路図があるか。引湯管、湯だめ、貯湯槽、枝管がどこにあるか、図で説明できるか。
貯湯槽や湯だめの温度を、実際に測って記録しているか。設定値ではなく実測値です。
夜間や休館日に湯が止まる区間があるか。あるなら、再開時にどれだけ流してから使っているか。
原湯の検査をしたことがあるか。浴槽水だけでなく、浴槽に入る前の湯です。
塩素を使っていない場合、検査は年四回以上になっているか。
まとめ
かけ流しは、毎日完全に換水するという指針の原則を、構造として満たしている形です。そこは有利です。ただし、法令上の扱いが特別になるわけではなく、検査が要らなくなるわけでもありません。塩素を使っていないなら、検査はむしろ増えます。
そして実際に数字が出るのは、たいてい浴槽ではなく、源泉から浴槽までの間の、止まって冷めている区間です。かけ流しを名乗る施設ほど、その区間の図面と温度記録を持っておいたほうがいい、と考えています。
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出典
レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針(厚生労働省)
雅堂では、循環式の浴槽だけでなく、かけ流しの施設の引湯管・湯だめ・貯湯槽の洗浄も行っています。循環させていないのに数字が落ち着かない、という段階でご相談いただくことが多い部分です。
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執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月15日