レジオネラ対策は、突き詰めると三つしかない
これまで浴槽、配管、ろ過器、貯湯槽、冷却塔、加湿器と、設備ごとに書いてきました。設備が増えるほど覚えることも増えるように見えますが、実は元をたどると考え方は三つしかありません。厚生労働省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」が、その三つをはっきり書いています。
結論:指針が挙げている三つの観点
指針は、レジオネラ症の発生を予防する対策の基本を、レジオネラ属菌が繁殖しやすい状況をできるだけなくし、これを含むエアロゾルの飛散を抑制する措置を講ずることである、と定めています。そのうえで、講ずべき衛生上の措置の観点として、次の三つを挙げています。
①微生物の繁殖及び生物膜等の生成の抑制、②設備内に定着する生物膜等の除去、③エアロゾルの飛散の抑制。これだけです。浴槽であれ冷却塔であれ加湿器であれ、条文に書かれている個々の作業は、すべてこの三つのどれかに当てはまります。
① 微生物の繁殖と生物膜の生成を抑える
これは「増やさない」ための措置です。消毒剤の濃度管理、水温の管理、供給する水の質、換水の頻度。日常の管理と呼ばれているものは、ほとんどがこの一つ目に入ります。
毎日やること、週に一度やることが多いのが特徴です。浴槽なら遊離残留塩素の測定、給湯設備なら温度の確認、冷却塔なら水の汚れの点検。回数が多いぶん、記録も溜まります。
逆に言えば、この一つ目だけを一生懸命やっていても、すでにできてしまった汚れには効きません。ここが次の二つ目との境目です。
② 定着した生物膜を除去する
これは「落とす」ための措置です。すでに設備の内壁に張りついてしまった生物膜を、物理的・化学的に剥がして流す。配管洗浄、ろ過器の生物膜の除去と消毒、冷却塔の清掃と完全換水が、ここに当たります。
一つ目と二つ目を混同しているケースを、現場でよく見ます。「毎日塩素を入れているのに検出される」という相談のほとんどは、一つ目はできていて二つ目が抜けている状態です。生物膜の内側までは、通常の濃度の消毒剤は届きません。
頻度は一つ目よりずっと少なく、年に一度、あるいは週に一度という単位になります。そのぶん一回あたりの作業は大きく、休業や設備の停止をともないます。計画を立てないと後回しになる性質の作業です。
③ エアロゾルの飛散を抑える
これは「飛ばさない」ための措置です。レジオネラ症は菌を含んだ細かい水滴を吸い込むことで起こりますから、水滴が人に届かなければ、そもそも発症に至りません。
打たせ湯やシャワーに循環している浴槽水を使わない、気泡発生装置のある浴槽に連日使用した水を回さない、冷却塔を外気取入口や人が活動する場所から離す、エアロゾルの放散量が少ない構造のものを選ぶ。条文のあちこちに出てくるこれらは、すべて三つ目の話です。
三つのなかで、いちばん設計や配置で決まってしまうのがこの項目です。あとから変えにくいぶん、変えられない場合は一つ目と二つ目の頻度で補うことになります。
三つには順番がある
新しく管理を組み立てるなら、まず②から入るのが現実的です。既存の汚れを一度落としてしまわないと、①をどれだけ積んでも数字が落ち着かないからです。土台を作ってから日常管理を回す、という順番になります。
そのうえで③を見直す。設備の配置や使い方は簡単には変えられませんが、「打たせ湯に何の水を使っているか」のような運用は、今日からでも変えられます。
設備ごとに当てはめてみる
浴槽なら、①が遊離残留塩素の管理と換水、②が配管洗浄とろ過器の生物膜除去、③が打たせ湯・気泡発生装置への再利用水の禁止です。
冷却塔なら、①が水の汚れの月1回の点検と殺菌剤、②が年1回の清掃と完全換水、③が設置位置とエアロゾルの飛散抑制です。
給湯設備なら、①が貯湯槽と末端の温度管理、②が定期的な清掃と消毒、③がシャワーや水栓から出る水の扱いです。
加湿器なら、①が供給水の質と日々の換水、②が使用開始時・終了時の水抜きと清掃、③が設置場所と人との距離です。設備が変わっても、埋める枠は同じです。
指針に名前が出ていない設備はどうするか
指針には、入浴設備、空気調和設備の冷却塔、給湯設備及び加湿器以外であっても、エアロゾルを発生させる機器及び設備について、第一の二に基づき、適切な衛生上の措置を講ずることが必要である、と書かれています。
つまり、名前が出ていないからといって対象外にはなりません。水を細かくして空気中に出す設備であれば、同じ三つの観点で見る。これが指針の立て方です。自分の施設にそういう設備がないか、一度見渡してみてください。
自主管理という考え方
指針の最後には、施設の管理者は、自主管理を行うため、自主管理手引書及び点検表を作成して、従業者等に周知徹底するとともに、施設の管理者又は従業者の中から日常の衛生管理に係る責任者を定めることが必要である、とあります。
手引書と点検表を作る。従業者に周知する。責任者を決める。この三つが揃って、はじめて「自主管理をしている」と言える状態になります。点検表だけがあって誰が見るのか決まっていない、というのは珍しくありません。
点検表を作るときは、①②③のどれに当たる作業なのかを行の横に書いておくと、抜けが見つけやすくなります。①ばかり並んでいて②が一行もない点検表は、しばらく経つと必ず検査結果に出てきます。
まとめ
増やさない、落とす、飛ばさない。レジオネラ対策は、この三つの枠に整理できます。設備の種類だけ手順があるように見えても、やっていることは三つのどれかです。
自分の施設の管理表を、この三つで色分けしてみてください。どこが薄いのかが、はっきり見えるはずです。
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出典
レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針(厚生労働省)
雅堂では、この三つのうち②の「落とす」作業を専門にしています。日常の管理は続けているのに数字が落ち着かない、という段階でご相談いただくことが多い部分です。
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執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月15日