機械浴槽は、なぜ普通の浴槽より難しいのか
高齢者施設や病院で使われる機械浴槽。特殊浴槽、チェアバス、ストレッチャー浴などとも呼ばれます。ご相談をいただく設備の中でも、管理がいちばん難しいと感じる設備です。理由は「複雑だから」という漠然としたものではなく、どこが難しいかがはっきりしています。今回はその話です。
結論:構造が複雑で、抜けない水が残る
機械浴槽は、気泡発生装置や循環設備が付いた複雑な構造をしています。横浜市西区の資料は、この設備についてこう書いています。
「管理や清掃が不十分な場合、レジオネラ属菌に汚染される恐れがある」
そして理由として、こう続きます。気泡発生装置内は「完全に排水することが難しく、配管等にたまり水ができ、レジオネラ属菌の温床となる恐れがある」。
「完全に排水することが難しい」という一言
これが、機械浴槽の核心だと考えています。
一般の浴槽であれば、栓を抜けば水は落ちます。残るのは配管の中だけです。ところが気泡発生装置は、浴槽の底や側面から空気を送り出すために、細い管とノズルが網の目のように走っています。浴槽の水を抜いても、その管の中には水が残ります。
残った水は、次に使うまでそこにいます。温度は下がり、有機物も一緒に残る。つまり、浴槽を空にして「今日はもう空だから安心」と思っている時間が、菌にとってはいちばん条件のいい時間になります。
利用者の側の条件も、重なっている
設備の条件だけではありません。使う人の条件も重なります。
大阪府のマニュアルは、レジオネラ症について「幼児やお年寄り、あるいは他の病気などにより身体の抵抗力が低下している人に発病のおそれが強い」と書いています。
機械浴槽を使うのは、まさにその方々です。自力での入浴が難しい、基礎疾患がある、加齢で抵抗力が落ちている。設備としてリスクが高く、利用者としてもリスクが高い。この二つが重なっている設備は、ほかにあまりありません。
毎日やること
資料が「毎日」として挙げているのは、次の作業です。
浴槽および補助水槽を、完全に換水して清掃すること。
集毛器を清掃すること。
簡易ろ過器(フィルタータイプ)を清掃すること。
消毒装置の送液ポンプが動いているかを確認すること。ポンプが止まっていても、見た目は何も変わりません。だから毎日の確認項目に入っています。
週に一回やること
週単位で指定されているのは、この二つです。
気泡発生装置を、塩素系薬剤等で消毒すること。一週間に一回以上。
循環配管を、塩素系薬剤等で消毒すること。こちらも一週間に一回以上。ここでいう消毒は、浴槽に薬剤を入れるだけでは届きません。気泡発生装置の配管を通して、薬剤を循環させる必要があります。
「機種によって異なる」と書かれている意味
資料には、もう一つ大事な一文があります。清掃・消毒の方法は「機械浴槽の機種ごとに確認」すること、そして製造メーカーに相談すること。
一般的な循環式浴槽と違い、機械浴槽は機種ごとに配管の取り回しが違います。どこにたまり水ができるか、どの操作をすればその水が動くか。それは図面と取扱説明書を見ないと分かりません。
資料が「機器取扱説明書に基づいた維持管理手引書の作成」を求めているのも、同じ理由です。汎用の手順書ではなく、その機械のための手順書を作る、ということです。
取扱説明書が見当たらない施設は、まずメーカーに連絡して取り寄せるところからです。費用はかからず、効果はいちばん大きい部類に入る作業だと考えています。
打たせ湯・シャワーと、循環水
大阪府のマニュアルにも、技術上の指針と同じ一行があります。
「打たせ湯及びシャワーには、循環水を用いないこと」
機械浴槽にシャワーが付いている機種では、そのシャワーの水がどこから来ているかを確認してください。浴槽の水を回して使う構造であれば、そこはエアロゾルの発生源になります。
塩素濃度の目安
遊離残留塩素については、大阪府のマニュアルが数値を示しています。
「通常〇・四mg/L以上を保ち、かつ、最大一・〇mg/Lを超えないよう努める」
換水については、毎日完全に換水して清掃することが望ましいとされ、困難な場合でも一週間に一回以上の完全換水とされています。機械浴槽は一人ごとに湯を入れ替える運用が多いので、この点は満たしている施設が大半です。問題は、浴槽の水ではなく配管の中にあります。
年に一回の検査
循環設備がある場合は、浴槽水のレジオネラ属菌検査を一年に一回以上、とされています。基準はほかの浴槽と同じで、検出されないこと(一〇CFU/一〇〇mL未満)です。
検査のとき、採水する場所を浴槽の真ん中だけにしていると、配管の状態は反映されません。気泡発生装置を動かした状態で採る、循環口の近くで採るなど、採り方で結果が変わります。
現場で確認したいこと
機械浴槽の取扱説明書が手元にあるか。なければメーカーに取り寄せたか。
気泡発生装置の配管を、週一回以上、薬剤を循環させる形で消毒しているか。浴槽に薬剤を入れるだけになっていないか。
消毒装置の送液ポンプの動作確認が、毎日の点検表に項目として入っているか。
補助水槽を別に持つ機種では、その清掃が点検表に入っているか。
使用しない日が続いたあと、最初に使う前に、配管の中の水を入れ替えているか。
まとめ
機械浴槽が難しいのは、抜けない水が構造として残るからです。そして使うのは、レジオネラ症で重症化しやすい方々です。この二つが重なっているという理解が、管理の出発点になります。
浴槽の見た目がきれいでも、配管の中は別です。毎日の換水と、週一回の配管消毒。この二つを、機種ごとの手順で確実にやることが、いちばん確かな対策だと考えています。
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出典
レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針(厚生労働省)
社会福祉施設等の入浴設備におけるレジオネラ症発生防止対策マニュアル(大阪府)
雅堂では、機械浴槽の気泡発生装置と循環配管の薬剤洗浄も行っています。取扱説明書を確認し、機種に合わせた経路と条件で薬剤を回します。毎日の換水はしているのに検査で数字が出る、という段階でご相談いただくことが多い部分です。
お電話受付 9:00-20:00 / 080-7744-9636
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月15日