長く止めた浴槽を、また使うとき

改装工事、設備の入れ替え、繁忙期以外の休業、あるいは検査で引っかかって停止していた期間。浴槽をしばらく使わずに置くことは、どの施設にもあります。

そして再開の日は、たいてい慌ただしい。掃除をして、湯を張って、開ける。

ところが公衆浴場における衛生等管理要領は、この「再開」を名指しして注意を促しています。今回はその一文を起点に、止めている間に何が起きるのか、再開の前に何をすべきかを整理します。

要領は「休止後の再開」を名指ししている

公衆浴場における衛生等管理要領には、次の記述があります。

新規営業開始時や休止後の再開時は、レジオネラ属菌が増殖している危険性が高いので、十分に消毒した後に営業開始、再開するよう注意すること。

短い一文ですが、押さえるべき点が三つあります。

一つ、対象は新規開業と休止後の再開の両方だということ。新品の設備でも、施工から開業までの間に配管の中で水が滞留していれば同じ状態になります。

二つ、「危険性が高い」と言い切っていること。可能性がある、ではありません。

三つ、順番が指定されていること。十分に消毒した後に、営業開始・再開する。開けてから様子を見る、ではありません。

なぜ止めている間に増えるのか

使っていないほうが汚れないはずだ、と考えるのが自然です。しかし水の設備については逆になります。

理由は、滞留です。

循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルには、次の記述があります。

配管、連通管、貯湯槽の水位計などに湯が滞留する場所があり、そこでレジオネラ属菌が増殖することがあります。

水が動いていれば、消毒剤も動きます。止まれば、消毒剤は消費されて濃度が下がり、そこから先には届きません。

温度も効きます。運転中は高温か低温のどちらかに保たれていた場所が、止めると中途半端な温度に落ち着きます。二十度から四十度台は、レジオネラ属菌にとって増えやすい温度帯です。

そして生物膜です。配管の内壁に残った膜は、水が止まっても消えません。水と栄養があればそのまま生き延び、再開して湯を流したときに剥がれて浴槽に出てきます。

つまり休止期間は、菌にとっては邪魔の入らない時間です。

止める前にやっておくこと

再開を楽にするいちばん確実な方法は、止める前の処理です。

水を抜く。浴槽、循環配管、ろ過器、回収槽、貯湯槽。抜けるところはすべて抜きます。要領は貯湯槽について、底部は汚れが堆積しやすく低温になりやすいので定期的に滞留水を排水すること、としています。休止に入る前は、その最たるタイミングです。

抜く前に洗う。水を抜いてから洗うのではなく、洗浄剤を回してから抜きます。生物膜を残したまま乾かすと、次に水を入れたときに一気に戻ります。

乾かす。完全に乾燥させられれば、微生物は大きく減ります。ただし配管の低い部分には水が残ります。抜いたつもりでも残ることを前提にしてください。

この三つをやっておくと、再開時の作業は点検と消毒で済みます。やらずに止めると、再開時に洗浄からやり直すことになります。

再開の前にやること

実務の順番を書きます。

一、配管図を確認する。休止中に工事をしていれば、系統が変わっていることがあります。使わなくなった枝管が残っていれば、そこは消毒が届かない場所になります。

二、滞留水を抜く。浴槽だけでなく、貯湯槽の底部、循環配管、ろ過器、集毛器、回収槽。気泡発生装置や打たせ湯の系統があれば、その内部も抜きます。

三、洗浄する。生物膜の除去です。マニュアルは洗浄の方法として、過酸化水素、塩素、加温の三つを挙げています。どれを選ぶかは配管の材質と汚れの状態によります。ブラシが届く範囲はブラシを使うほうが確実です。

四、消毒する。洗浄と消毒は別の作業です。汚れが残ったまま塩素を入れても、塩素は汚れと反応して消費され、菌まで届きません。順番は洗ってから消毒です。

五、通水する。消毒剤を全系統に行き渡らせます。打たせ湯、シャワー、気泡発生装置、水位計配管。普段あまり流れない枝も、このときに流します。要領はシャワーについて、少なくとも週に一回、内部の水が置き換わるように通水することとしています。休止していた設備なら、なおさらです。

六、すすぐ。消毒剤を残したまま営業すると、入浴者の皮膚や設備に影響が出ます。

七、検査する。ここは次の章で書きます。

消毒してから、検査する

順番を間違えると、検査そのものが無駄になります。

検査は、消毒が効いたかどうかを確かめるために行います。消毒の前に測っても、当たり前の結果しか出ません。

検査の種類は二つあります。培養法と迅速検査法です。

培養法は、レジオネラ属菌を実際に培養して数える方法で、行政への報告に使われるのはこちらです。ただし結果が出るまでに一週間から十日ほどかかります。

迅速検査法は結果が早く出ます。マニュアルは、迅速検査法の使い道として次を挙げています。

患者発生時の感染源調査(原因究明)

改善措置後の陰性確認検査(営業再開の目安)

洗浄効果の判定(陰性証明)等

つまり、営業再開の目安として使う検査として、迅速検査法が名指しされています。

ただし注意点があります。迅速検査法のうち遺伝子を検出する方法には、菌の生死に関わらず検出してしまうものがあります。消毒で死んだ菌の遺伝子が残っていれば陽性になることがある、ということです。逆に言えば、陰性が出れば信頼性は高い。

実務としては、迅速検査で当たりをつけて、培養法で確認する。これが現実的な組み立てです。

検査結果が出るまでの考え方

ここは正直に書きます。

培養法の結果を待つと、再開は一週間から十日遅れます。売上を止めたくない気持ちは分かりますし、当社もその相談を受けます。

ただ、要領は「十分に消毒した後に」と書いています。消毒をしたかどうかは、やった側には分かります。効いたかどうかは、検査でしか分かりません。

判断が分かれるのは、この二つの間です。

ひとつの整理として、休止の理由で分けるやり方があります。工事や季節休業など、菌が原因ではない休止なら、洗浄と消毒を確実にやったうえで再開し、培養検査は再開後に走らせる。検査で引っかかって止めていた場合は、結果が出るまで開けない。

この線引きが妥当かどうかは、施設の性格にもよります。高齢者や乳幼児、免疫機能の低下している方が多く利用する施設では、迷ったら待つ側に倒すべきです。技術上の指針は、そうした施設について衛生上の措置を徹底して講ずることが必要であると書いています。

空調・給湯・シャワーも同じ

止めていたのが浴槽だけとは限りません。

空気調和設備の冷却塔について、技術上の指針は、使用開始時及び使用期間中は一か月に一回以上、点検し清掃等を実施することとしています。ここに「使用開始時」が入っているのは、止めていた設備を動かすときが危ないからです。

加湿装置も同様で、指針は使用開始時及び使用終了時に水抜き及び清掃を実施すること、としています。シーズンの前後に一回ずつ、という指定です。

給湯についても、指針は湯水が貯湯槽や給湯のための配管内で滞留することによって微生物が繁殖しやすくなるとしています。長期休館から戻った建物では、まず末端まで通水するのが基本です。

建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則も、冷却塔・冷却水・加湿装置・排水受けの点検を「使用開始時及び使用を開始した後、一月以内ごとに一回」と定めています。使用開始時、という言葉は繰り返し出てきます。

記録の残し方

再開時の作業は、あとから説明を求められることがあります。とくに休止の理由が菌の検出だった場合、保健所は経過を見ます。

残しておくとよいのは、次のものです。

休止に入った日と、そのときに実施した水抜き・洗浄の内容。

休止中に行った点検があれば、その日付。

再開前の洗浄の日付、使用した薬剤の名称と濃度、循環させた時間。

消毒の日付、遊離残留塩素の測定値。

検査の採水日、採水場所、検査方法、結果。

再開日。

水質検査の結果も遊離残留塩素の測定結果も、検査の日から三年間保管することとされています。再開時の記録はその中でもとくに参照されやすいので、まとめて一綴りにしておくと説明が早く済みます。

よくある失敗

現場で見てきたものを挙げます。

浴槽だけ洗って再開する。配管の中は手つかずなので、数日で戻ります。

水を張ってから消毒剤を入れて、それで済ませる。汚れが残っていれば塩素は消費されます。測って0.4mg/Lあっても、配管の奥までその濃度が届いているとは限りません。

使っていない枝管を忘れる。工事で切り離したはずの配管が、実は水が残ったままつながっていた、という例があります。配管図の確認が効くのはここです。

気泡発生装置と打たせ湯を飛ばす。普段から水が残りやすい場所で、休止中はなおさらです。

検査の採水場所を、いちばんきれいなところで取る。浴槽の中央から取れば、たいてい良い数字が出ます。確認したいのは、いちばん条件の悪い場所です。

まとめ

公衆浴場における衛生等管理要領は、新規営業開始時や休止後の再開時はレジオネラ属菌が増殖している危険性が高いとして、十分に消毒した後に営業開始・再開するよう求めています。

止めている間に増えるのは、水が滞留し、消毒剤が届かなくなり、温度が中途半端になるためです。循環式浴槽マニュアルは、配管・連通管・貯湯槽の水位計などの滞留場所で増殖することがあると記しています。

再開前の手順は、配管図の確認、滞留水の排出、洗浄、消毒、全系統への通水、すすぎ、検査の順です。洗浄と消毒は別の作業で、順番を逆にすると塩素が汚れに消費されます。

検査は消毒の後に行います。マニュアルは迅速検査法の用途として「改善措置後の陰性確認検査(営業再開の目安)」を挙げています。

冷却塔・加湿装置・給湯設備についても、技術上の指針と建築物衛生法施行規則は「使用開始時」の点検を求めています。止めていた設備を動かす日が、いちばん確認すべき日です。

株式会社雅堂では、休止からの再開にあわせた配管洗浄と、洗浄後の確認までをまとめてお引き受けしています。日程が決まっていない段階のご相談でも構いません。

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出典

公衆浴場における衛生等管理要領(厚生労働省)

循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル(厚生労働省)

レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針(厚生労働省)

レジオネラ対策のページ(厚生労働省)

執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)

更新日:2026年9月16日