使っていない配管は、消毒が届かない場所になる
循環配管の洗浄をご依頼いただくとき、最初に伺うのが「配管の図面はありますか」という質問です。多くの施設で、答えは「たぶんどこかにある」か「改修のときに更新していない」のどちらかです。これは書類の話に見えて、実は菌の話です。
結論:要領は「不要な配管を除去すること」と書いている
「公衆浴場における衛生等管理要領」は、ろ過器及び循環配管について、次のように書いています。
「図面等により、配管の状況を正確に把握し、不要な配管を除去すること」
別の箇所では、もう少し踏み込んでいます。「設計施工時に配管を最短にする、図面等により配管の状況を正確に把握し、既存の不要な配管を除去する等の対応が必要である」。掃除の仕方ではなく、配管そのものを減らせ、という指示です。
なぜ使っていない配管が問題になるのか
浴槽の改修、露天風呂の増設、水風呂の追加、家族風呂の閉鎖。長く営業している施設ほど、配管は足し算で増えていきます。そして使わなくなった配管は、たいてい撤去されず、バルブを閉めただけで残ります。
閉じたバルブの向こう側には、水が入ったままです。動きません。温度も中途半端です。そして、循環洗浄の薬剤もそこには入っていきません。バルブが閉まっているからです。
つまり、使っていない配管は「洗えない場所」であると同時に「菌にとって条件のいい場所」になります。そしてそこは、いつか開きます。バルブのわずかな漏れ、誤操作、共用部分での逆流。何かの拍子に、溜まっていたものが本流に出てきます。
見落とされる代表格:水位計配管
要領には、循環配管とは別に、こういう一行があります。水位計配管について、です。
「少なくとも週に一回、適切な消毒方法で生物膜を除去」
水位計につながる細い管は、浴槽と同じ高さまで水が入ったまま、ほとんど動きません。細く、暗く、止まっていて、温度は浴槽より低い。条件が揃いすぎています。それでいて、循環洗浄の経路には入っていないことが多い。週一回という頻度がわざわざ指定されているのは、それだけ危ないからだと考えています。
貯湯槽の底も、同じ理屈です
要領は貯湯槽についても注記しています。「貯湯槽の底部は汚れが堆積しやすく低温になりやすいので、定期的に貯湯槽の底部の滞留水を排水すること」
貯湯槽の温度を確認するとき、多くの方は上のほうの温度計を見ます。しかし菌が増えるのは底です。堆積物があり、温度が下がる。同じ槽の中に、六十度の部分と四十度の部分が同居していることは珍しくありません。
配管の点検には、二つの頻度がある
要領は、ろ過器と循環配管について二段構えで書いています。
まず週単位。「一週間に一回以上、ろ過器を十分に逆洗浄して汚れを排出するとともに、ろ過器及び循環配管について、適切な方法で生物膜を除去、消毒」
そして年単位。「年に一回程度は循環配管内の生物膜の状況を点検し、生物膜がある場合には、その除去を行うこと」
週一回のほうは日常の管理です。年一回のほうは「状況の点検」、つまり実際に中を見る作業です。日常の消毒をきちんとやっていても、年に一度は確認しなさい、という構造になっています。逆洗浄の記録がびっしり埋まっている施設でも、配管の中を見たことは一度もない、というのはよくあります。
消毒方法は「選ぶ」もの
もうひとつ、注記に短く書かれていることがあります。
「消毒方法は、循環配管及び浴槽の材質、腐食状況、生物膜の状況等を考慮して適切な方法を選択すること」
材質、腐食の状態、生物膜の付き方。この三つを見てから決めなさい、と書かれています。どの施設にも同じ薬剤を同じ濃度で流す作業は、ここでいう「選択」をしていません。古い塩ビと銅管と鋼管が混在している施設に一律の条件で薬剤を流すと、落ちないか、配管を傷めるかのどちらかになります。
図面がない施設は、まず図面から
「図面等により、配管の状況を正確に把握し」という書き方は、順番を示しています。把握が先で、除去が後です。
現実には、図面が残っていない施設、改修が反映されていない図面しかない施設が少なくありません。その場合は、実際にたどるしかありません。バルブを一つずつ確認し、どこにつながっているかを追い、使っていない系統を洗い出します。
地味な作業ですが、ここで出てくる「誰も知らなかった配管」が、そのまま原因であることがあります。
把握できたら、選択肢は二つです。撤去するか、洗浄と消毒の経路に組み込むか。閉めたまま残しておくのが、いちばん良くありません。
構造そのものが決めてしまうこと
要領には、構造設備についての規定もあります。日常の管理では変えられない部分です。
「浴槽における原水又は原湯の注入口は、循環配管に接続せず、浴槽水面上部から浴槽に落とし込む構造とすること」
「循環してろ過された湯水は浴槽の底部に近い部分から補給される構造とし、当該湯水の誤飲及びエアロゾルの発生を防止すること」
そして、「配管内の浴槽水が完全に排水できるような構造とすること」。この一文が、この記事の話と直結します。抜けない配管は、洗えません。改修の機会があるなら、まずここを見てください。
現場で確認したいこと
現在の配管図があるか。最後に更新したのはいつか。
閉じたままのバルブがいくつあるか。その先がどこにつながっているか、説明できるか。
水位計配管が、週一回の消毒の対象に入っているか。
貯湯槽の底の水を、定期的に抜いているか。
年一回の「配管内の生物膜の状況の点検」を、実際に中を見る形でやっているか。
まとめ
配管洗浄は、つながっている配管しか洗えません。だから作業の前に、どこがつながっていて、どこが切り離されているかを知る必要があります。要領が「図面等により、配管の状況を正確に把握し、不要な配管を除去すること」と書いているのは、そういう意味だと考えています。
消毒を何度やっても数字が落ち着かない施設では、洗えていない場所が残っていることが少なくありません。薬剤を強くする前に、経路を疑ってみてください。
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出典
レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針(厚生労働省)
雅堂では、作業の前に配管の経路を確認し、使われていない系統や洗浄の届かない部分を洗い出したうえで、薬剤と条件を決めています。何度洗っても数字が戻ってくる、という段階でご相談いただくことが多い部分です。
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執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月15日