収蔵庫・書庫のカビ。湿度計を置く場所を間違えていないか
収蔵庫や書庫でカビが出たとき、まず資料を拭きたくなります。ですが順番が逆です。文部科学省の「カビ対策マニュアル 実践編」を読むと、最初にやることは湿度を疑うこと、次に隔離すること、拭くのはそのあとだと分かります。
文化財を扱う施設向けに書かれたマニュアルですが、書庫・倉庫・保管庫を持つ会社にもそのまま当てはまります。
目標の数字は、相対湿度60%
同マニュアルは、目指すべき状態をこう書いています。
あらゆる微生物が発生しにくい環境に空間を制御するのが最善である。すなわち相対湿度は60パーセントを超えないように、また空間や資料周りを清浄に保つことが重要である。
60%。覚えておく数字はこれひとつです。
部屋の湿度と、棚の中の湿度は違う
ここからが本題です。同マニュアルには、実際に測った結果が二つ載っています。
棚の中央は、通路より5%ほど高い。部屋に空調が効いていても、棚や書架が置かれ、その中に資料が詰まっていれば、空調の効果が棚の内部まで届くとは限りません。
積層棚の下の層だけ、カビが出た事例。温度は1層も2層も20度で差がなかったのに、相対湿度は1層で常時70%前後の高湿度が続き、1層の一部にカビが発生しました。2層に異常はありませんでした。その後、除湿機の数を増やして対応しています。
同じ部屋、同じ温度でも、場所によって湿度は違います。だから測る場所を間違えると、数字の上では問題がないのにカビが出ます。
そしてもうひとつ、見落としやすい指摘があります。
空調設備のある部屋にはその制御のために温湿度センサーが設置されているが、センサーの設置場所での計測は必ずしもその部屋の現状をあらわしていない。
空調の制御用センサーの数字を見て安心している、という状態が一番危ない。棚の中、下の層、壁際に、もう一つ湿度計を置いてください。
空気が止まっている場所を見つける
空気が滞留している場所は、多くの場合そこだけ湿度が高くなっています。
風速計は使いにくい。人が近づくだけで温度が上がって風が起きるからです。マニュアルが紹介しているのは、東京文化財研究所が推奨する方法です。色のついたビニールひもを手で細かく裂いて棚の縁に置き、その動きを撮影する。安価で簡便、と書かれています。
カビが出ている場所で、扇風機を回してはいけない
空気を動かすのは有効です。ただし条件があります。
カビが発生していない清浄な環境であれば、扇風機などでゆるやかに風を送るのも効果がある。しかしカビが発生している場所であれば、単に送風するだけではかえってカビの胞子を散らしてしまうことになる。
順番はこうです。
カビの発生源を見つけて、隔離する
周辺の棚などをアルコールで消毒する
そのうえで、HEPAフィルター付きの空気清浄機で空気を動かす
隔離とは、カビが出た資料のある空間と、健全な資料のある空間とで空気交換が起きない状態にすることです。ここでマニュアルは、現場向けに踏み込んだ書き方をしています。
理想的な材を探して時間を費やすよりも、まずは遮断することが先決である。
ビニールシートでも構わない、まず止めろ、ということです。
取り除くときの手順
掃除機はHEPAフィルター付きのものを使う
掃除機を使うときは、ノズルを操作する人と本体を持つ人の2人1組で行う
局部的なカビは、アルコールを浸して取り除く
色落ちが心配な資料は、吸引できる機器の近くで、やわらかな筆で払う
アルコールについて一点だけ補足します。アルコールはかけた瞬間にそこにいる菌には効きますが、蒸発したあとに残る力はありません。湿度が60%を超えたままなら、同じ場所に同じものが出ます。
外気を入れるときの落とし穴
換気のために外気を入れる施設は多いと思いますが、マニュアルはここを強く戒めています。
重要な資料がある空間へ新鮮外気を導入する場合は、必ずHEPAフィルターを介して供給する
温度・湿度を調整しないまま供給すると、室内に高湿度の場所ができる
冬季は冷気の当たる場所で結露が生じる。夏季はダクト等の送風装置の近くに湿気だまりができる
温度湿度を調整できない「換気のみ」のダクトは、条件によってはカビを呼び込む
換気をすればカビが減る、とは限りません。
自分でやる範囲と、そうでない範囲
正直に書きます。湿度計を増やす、除湿機を足す、隔離する、HEPA付きの掃除機で吸う。ここまでは館内・社内でできます。マニュアル自体、保存担当者だけでなく職員全体が自分のこととして取り組むべきだと書いています。業者を呼ぶ前にやることがあります。
雅堂にご相談いただきたいのは、次のような場合です。
壁・天井の広い面積に出ていて、拭いても数週間で戻る(建材の内部に菌糸が入っている可能性があります)
空調設備側に原因がありそうで、ダクトや吹出口の内部を見る必要がある
除湿と清掃を続けても再発が止まらず、防カビ施工まで含めて考えたい
現地を見たうえで「これは設備の調整で足ります」とお答えすることもあります。
出典
文部科学省「カビ対策マニュアル 実践編」
文部科学省「カビ対策マニュアル 基礎編」
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執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月23日