「エアコンのフィルターを掃除すると電気代が下がる」。よく聞く話ですが、どれくらい下がるのかを数字で答えられる人は多くありません。
実は、経済産業省 資源エネルギー庁が省エネポータルサイトで具体的な数値を公表しています。しかも、他の省エネ策と並べて比較できる形で。
この記事では、その公表値をそのまま引用し、業務用の現場でどう読み替えればよいかを整理します。
まず、フィルター清掃の効果です。
フィルターを月に一回から二回清掃した場合、年間で31.95kWhの電力削減。原油換算で8.05リットル、CO2削減量は15.6キログラム、金額にして約990円の節約。
前提条件は、冷房能力2.2kWのエアコンです。家庭用の壁掛けエアコン、いわゆる6畳から8畳用に相当します。
一台あたり年間約990円。金額としては小さく見えるかもしれません。ただ、この数字の意味は金額そのものではなく、他の省エネ策と比べたときの位置にあります。
同じサイトは、他の省エネ策についても同じ前提で数字を出しています。
冷房の設定温度を27度から28度に上げた場合(外気温31度、1日9時間使用)、年間30.24kWh、約940円の削減。
暖房の設定温度を21度から20度に下げた場合(外気温6度、1日9時間使用)、年間53.08kWh、約1,650円の削減。
冷房運転を1日1時間短縮した場合(設定温度28度)、年間18.78kWh、約580円の削減。
暖房運転を1日1時間短縮した場合(設定温度20度)、年間40.73kWh、約1,260円の削減。
並べると、フィルター清掃の約990円は、冷房の設定温度を1度上げるのとほぼ同じ効果だと分かります。
そしてここが重要なのですが、設定温度を1度変えることも、運転を1時間短くすることも、その分だけ快適性を削っています。フィルター清掃だけは、何も削らずに同じ効果が出ます。
「我慢しない省エネ」という言い方がありますが、数字で見るとこの表現は正確です。
公表値の前提は2.2kWのエアコンです。業務用の天井カセット型は、4方向タイプで5.0kWから14.0kW程度。能力が二倍から六倍あります。
消費電力量も、おおむねそれに応じて大きくなります。単純な比例にはなりませんが、桁が一つ違うと考えて差し支えありません。
さらに業務用では、台数が効きます。事務所に天井カセットが8台あれば、効果は8台分です。稼働時間も、家庭の1日9時間に対して、店舗や事務所では10時間から14時間になることが珍しくありません。
つまり、家庭用で年間990円という数字は、業務用の現場では一桁から二桁違う金額になります。フィルター清掃を後回しにしている事業所ほど、取り返せる金額が大きいということです。
仕組みを押さえておくと、判断が変わります。
エアコンは、室内の空気を吸い込み、熱交換器で冷やしたり温めたりして、吹き出します。この空気の量、つまり風量が、熱をやりとりできる量を決めています。
フィルターが目詰まりすると、吸い込める空気が減ります。風量が減れば、一回あたりに運べる熱量が減る。設定温度に到達するまでの時間が延びます。
到達が遅れるということは、圧縮機が長く回るということです。圧縮機はエアコンの中で最も電気を使う部品ですから、そのまま消費電力量に効いてきます。
冷房ではもう一つ問題が起きます。風量が落ちると熱交換器の表面温度が下がりすぎ、条件によっては霜が付きます。霜が付けば熱交換はさらに悪くなり、悪循環になります。
ここからが、掃除する側の実感の話です。
フィルターは、比較的大きな粒子を止める部品です。目の粗さには限界があり、数マイクロメートル以下の微細な粒子は通り抜けます。
通り抜けた粒子はどこに行くか。熱交換器のアルミフィンと、送風ファンの羽根です。
アルミフィンは数ミリ間隔で並んでいて、そこに粒子が引っかかります。冷房時は結露水で湿っていますから、粒子は洗い流されるのではなく、貼り付きます。
送風ファン、とくに業務用のターボファンやシロッコファンは、羽根一枚ごとに汚れが積もります。羽根の断面形状が変われば、同じ回転数でも送れる風の量が減ります。
だから、フィルターをどれだけ丁寧に洗っても、内部の風量低下は戻りません。フィルター清掃は毎月の仕事、分解洗浄は年単位の仕事。役割が違います。
省エネの話だけではありません。
建築物衛生法施行令第二条は、空気環境について浮遊粉じん0.15mg/立方メートル以下、二酸化炭素1,000ppm以下、気流0.5m/秒以下といった基準を定めています。事務所衛生基準規則にも同様の規定があります。
このうち二酸化炭素は、換気量が足りなければ上がります。全熱交換器や外気取入系統のフィルターが詰まっていれば、必要な外気量が入りません。
浮遊粉じんも同じです。フィルターの捕集が効いていない状態では、室内に粉じんが残ります。
つまり風量の維持は、省エネの話であると同時に、法令に適合させるための条件でもあります。測定で引っかかってから慌てるより、フィルターと内部の清掃で先に手を打つほうが確実で安くつきます。
特別な測定器がなくても、ある程度は判断できます。
一つ、吸込口と吹出口の温度差を測る。冷房で10度前後が目安です。温度差が小さすぎる場合は風量が出すぎか冷媒不足、大きすぎる場合は風量不足を疑います。
二つ、吹出口に手をかざして風の勢いを見る。同じ機種が複数ある現場では、比較すると差が分かります。
三つ、ブレーカーのクランプメーターで消費電流を見る。前年の同時期と比べて上がっていれば、どこかで効率が落ちています。
四つ、フィルターを外して光にかざす。向こう側が見えなければ、風はそれだけ通っていません。
資源エネルギー庁の前提は月に一回から二回です。これは家庭用の話ですが、業務用でも出発点はここです。
飲食店の客席、喫煙室に近い系統、粉じんの多い工場や作業場では、二週間に一回でも足りないことがあります。実際に外して見て、汚れ方から決めるのが確実です。
方法の基本は三つです。
まず掃除機で表面のほこりを吸う。いきなり水をかけると、ほこりが目に押し込まれます。
次に、ぬるま湯で裏側から流す。表側から流すと、これも目に押し込むことになります。高温のお湯は樹脂が変形するので避けます。
最後に、完全に乾かしてから戻す。ここがいちばん大事です。濡れたフィルターを戻すと、内部の湿度が上がり、カビの発生源になります。急ぐ場合でも陰干しで、ドライヤーの熱風は使いません。
自動でフィルターを清掃する機能がついた機種があります。業務用でも、天井カセット型の一部に搭載されています。
この機能は、フィルター表面のほこりをブラシで掻き取り、ダストボックスに集めるものです。フィルター清掃の手間は減ります。
ただし、ダストボックスは満杯になります。ここを空けなければ、掻き取ったほこりの行き場がなくなります。
そして、フィルターを通り抜けた微細粒子がアルミフィンと送風ファンに堆積するという構造は、お掃除機能の有無に関係ありません。「お掃除機能付きだから内部洗浄は不要」ということにはならない、という点は押さえておいてください。
むしろ、お掃除機構の分だけ部品点数が多く、分解洗浄の手間と費用は上がります。当社でも、お掃除機能付きは別料金の設定にしています。
フィルター清掃も分解洗浄も、やったかどうかを後から確認できる形にしておくと、判断が楽になります。
記録するのは三つで足ります。実施日、実施箇所(何台のうちどれか)、そして可能なら作業前後の吸込・吹出温度差です。
建築物衛生法の対象であれば、これらは帳簿書類として五年間保存する対象に含まれます。事務所衛生基準規則の空気環境測定記録は三年間です。
記録が溜まると、次の年の計画が数字で立てられるようになります。
資源エネルギー庁の公表値では、フィルターを月一回から二回清掃することで、年間31.95kWh、約990円、CO2 15.6キログラムの削減(冷房能力2.2kWのエアコンの場合)。
これは冷房の設定温度を1度上げる効果(30.24kWh、約940円)とほぼ同じですが、フィルター清掃は快適性を削りません。
業務用の天井カセット型は能力が数倍あり、台数も稼働時間も多いため、効果の金額は家庭用より大きくなります。
フィルターが止められるのは大きな粒子までで、通り抜けた微細粒子は熱交換器と送風ファンに堆積します。ここはフィルター清掃では戻りません。
風量の低下は、二酸化炭素や浮遊粉じんの基準超過という形で、法令の問題にもなります。
株式会社雅堂では、業務用エアコンの分解洗浄で熱交換器・送風ファン・ドレンパンまで洗います。お掃除機能付きにも対応しています。現地を見てからのお見積りです。
建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令(e-Gov法令検索)
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
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