清掃の話をする前に、押さえておきたい法律がもう一つあります。フロン排出抑制法です。
正式名称は「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」。この法律は、業務用エアコンを持っているすべての事業者に、定期的な点検と記録を義務づけています。
建築物衛生法や事務所衛生基準規則とは別の法律で、面積要件もありません。エアコンが一台でもあれば対象になります。
法律の第二条に、定義があります。
この法律において「第一種特定製品」とは、次に掲げる機器のうち、業務用の機器(一般消費者が通常生活の用に供する機器以外の機器をいう。)であって、冷媒としてフロン類が充塡されているものをいう。
一 エアコンディショナー
二 冷蔵機器及び冷凍機器(冷蔵又は冷凍の機能を有する自動販売機を含む。)
つまり、業務用のエアコンで冷媒にフロン類が入っているものは、ほぼすべてがこれに当たります。天井カセット型も、天吊り型も、床置き型も、ビル用マルチも対象です。
そして、その機器の使用を管理する責任を持つ人を「第一種特定製品の管理者」と呼びます。多くの場合、機器の所有者です。賃貸物件では、所有権がどちらにあるかで管理者が決まります。
環境省と経済産業省が公表している「フロン排出抑制法の概要【機器ユーザー編】」に、管理者の義務が整理されています。
まず、簡易点検。すべての第一種特定製品について、三か月に一回以上の点検が義務づけられています。
これは有資格者でなくても構いません。日常管理の一環として、施設の担当者が行うことを想定した点検です。
記録も簡素で、簡易点検については実施日と実施の有無があれば足ります。
三か月に一回。年に四回です。空気環境測定が年六回、ドレンパンの点検が年十二回。ここにもう一つ、年四回が加わります。
簡易点検とは別に、一定以上の大きさの機器には定期点検が課されます。頻度は圧縮機の定格出力で分かれます。
エアコンディショナーで、定格出力50kW以上のもの 一年に一回以上
エアコンディショナーで、定格出力7.5kW以上50kW未満のもの 三年に一回以上
冷凍冷蔵機器で、定格出力7.5kW以上のもの 一年に一回以上
圧縮機の定格出力であって、冷房能力ではない点に注意してください。銘板に記載があります。
こちらは十分な知見を有する者が行うこととされており、実務上は専門業者に依頼することになります。
なお、店舗用の天井カセット型の多くは7.5kW未満で、定期点検の対象外です。ただし簡易点検の三か月に一回は、出力に関係なく全機器にかかります。
この法律でとくに重要な条項があります。
冷媒漏えいが確認された場合、修理なしでのフロン類の充塡は、原則禁止されています。可能な限り速やかに漏えい箇所を特定し、必要な措置を実施することが求められます。
「効きが悪いからガスを入れておいて」という依頼が通らないのは、このためです。
漏れている状態で充塡すれば、入れた分だけまた大気に出ます。フロン類は温室効果が非常に大きいガスですから、法律はそこを止めにきています。
記録の保存期間も決まっています。
点検・整備の記録は、機器を廃棄するためのフロン類の引渡しが完了した日から三年間、保存しなければなりません。
つまり、機器を使っている間ずっと、そして廃棄してから三年間です。十五年使った機器なら、十八年分の記録が残ることになります。
ここまでで、業務用エアコンにかかる記録の保存期間が三つ出てきました。整理します。
建築物衛生法の帳簿書類 五年間
事務所衛生基準規則の空気環境測定記録 三年間
フロン排出抑制法の点検整備記録簿 廃棄時のフロン類引渡し完了から三年間
根拠法令が違うので、まとめて一つのファイルに綴じておくのが実務的です。
もう一つ、規模の大きい事業者向けの義務があります。
一年間の算定漏えい量が1,000トンCO2以上になった場合、国への報告が必要です。
CO2換算のトン数なので、冷媒の種類によって実際の漏えい重量は変わります。冷凍冷蔵倉庫やスーパーマーケットのように機器が多い事業者では、現実的に届きうる数字です。
ここからが、掃除屋としての話です。
簡易点検で確認するのは、室内機・室外機の外観、熱交換器の霜や氷の付着、配管や接続部の油にじみ、異常な音や振動、ドレンからの水漏れといった項目です。
このうち、油にじみ以外はすべて、分解洗浄のときに必ず見ている場所です。
冷媒が漏れている機器では、漏れた場所に冷凍機油がにじみます。配管の接続部、サービスバルブ、熱交換器のろう付け部。洗浄で近づいて見れば、気づける場所です。
当社では、洗浄作業のときにこうした点に気づいた場合、その旨をお伝えするようにしています。洗浄業者は冷媒を扱う資格とは別ですので、修理そのものは専門業者の仕事になりますが、見つけて伝えることはできます。
逆に言えば、洗浄のタイミングに簡易点検を合わせておくと、記録が一度に二つ残せます。年四回の簡易点検のうち一回を、分解洗浄の日に充てるという組み方です。
点検の話から少し離れますが、機器の寿命についても制度があります。
長期使用製品安全表示制度です。平成二十一年四月一日から施行されたもので、電気用品の技術上の基準を定める省令の改正によるものです。
対象は五品目。扇風機、エアコン、換気扇、洗濯機、ブラウン管テレビ。
これらの製品には、次の三つを表示することが義務づけられています。
製造年
設計上の標準使用期間
設計上の標準使用期間を超えて使用すると、経年劣化による発火・けが等の事故に至るおそれがある旨
「設計上の標準使用期間」とは、製造または輸入事業者が、標準的な使用条件の下で使用した場合に安全上支障なく使用することができる標準的な期間として、設計上設定するものです。
算出方法は各事業者が独自に決めることになっており、年数は製品によって違います。ルームエアコンについては、標準使用条件が平成二十一年三月二十日付で日本産業規格 JIS C9921-3 として制定されています。
ただし、この制度は電気用品安全法にもとづくものです。三相二百ボルトの業務用機には表示がない場合があります。その場合は、メーカーの補修用性能部品の保有期間が実質的な目安になります。カタログや取扱説明書に記載があるので、確認してください。
製品評価技術基盤機構(NITE)の注意喚起には、換気扇の事故事例が載っています。
約十八年使用した換気扇において、長期間の使用によりモーター巻線の絶縁性能が低下し、ショートして出火。
同じ資料が示すエアコンの事故件数は、2015年度から2019年度の五年間で263件、うち火災が244件、死亡事故が6件(7名)でした。
機械は、掃除をしても新品には戻りません。絶縁性能の低下、樹脂の脆化、コンデンサの容量抜け。これらは清掃では回復しない項目です。
現場でよく相談されるのが、この判断です。整理するとこうなります。
洗浄で戻るのは、風量、熱交換効率、匂い、ドレンの通りです。汚れが原因で落ちていた性能は、洗えば戻ります。
洗浄では戻らないのは、冷媒漏れ、圧縮機の劣化、基板やコンデンサの経年劣化、樹脂部品のひび割れです。これらは修理か更新の話になります。
判断の材料としては、製造年、簡易点検での油にじみの有無、電流値の推移、そして補修用部品がまだ手に入るかどうか。
当社は洗浄業者ですので、洗って戻る見込みがない機器については、正直にそうお伝えします。洗ってから「変わりませんでした」となるのが、いちばんよくない結果です。
最後に、この記事までに出てきた頻度を一覧にします。
建築物衛生法(延べ面積3,000平方メートル以上の特定建築物)
空気環境測定 二か月以内ごとに一回
冷却塔・冷却水・加湿装置・排水受けの点検 使用開始時および一月以内ごとに一回
冷却塔・冷却水管・加湿装置の清掃 一年以内ごとに一回
帳簿書類の保存 五年間
事務所衛生基準規則(面積要件なし)
空気環境の測定 二月以内ごとに一回
冷却塔・加湿装置・排水受けの点検 使用開始時および一月以内ごとに一回
冷却塔・冷却水管・加湿装置の清掃 一年以内ごとに一回
測定記録の保存 三年間
フロン排出抑制法(業務用エアコンを持つすべての事業者)
簡易点検 三か月に一回以上
定期点検 エアコン50kW以上は一年に一回以上、7.5kW以上50kW未満は三年に一回以上
点検整備記録簿の保存 廃棄時のフロン類引渡し完了から三年間
年間のカレンダーを作るときは、この三本を並べて組むと抜けません。
業務用エアコンは、フロン排出抑制法の「第一種特定製品」に当たります。面積要件はなく、一台でも対象です。
簡易点検は三か月に一回以上、すべての機器に義務づけられています。記録は実施日と実施の有無で足ります。
定期点検は、エアコンで定格出力50kW以上なら一年に一回以上、7.5kW以上50kW未満なら三年に一回以上。冷凍冷蔵機器は7.5kW以上で一年に一回以上です。
漏えいが確認された場合、修理なしでの充塡は原則禁止です。
点検整備記録簿は、廃棄時のフロン類引渡し完了から三年間保存します。
年間の算定漏えい量が1,000トンCO2以上の場合、国への報告が必要です。
長期使用製品安全表示制度により、エアコンには製造年と設計上の標準使用期間が表示されています。ただし業務用機には表示がない場合があります。
株式会社雅堂では、分解洗浄の際に気づいた不具合の兆候をお伝えしています。洗浄で戻らない機器については、その旨を正直にお伝えします。
フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)
環境省・経済産業省 フロン排出抑制法の概要【機器ユーザー編】
製品評価技術基盤機構(NITE) エアコンの内部洗浄による事故に注意
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
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