「レジオネラ属菌が出たので、塩素の濃度を上げて様子を見ています」。ご相談の中で、よくうかがう対応です。ただ、この方法で収まる場合と、収まらない場合があります。
浴槽水の遊離残留塩素は、水の中に浮いている菌には効きます。しかし配管やろ過器の内側にできた生物膜(バイオフィルム)の内部には、浸透しにくいことが知られています。
厚生労働省の循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルでも、生物膜の中のレジオネラ属菌には消毒剤が届きにくく、消毒効果が低下することが示されています。
つまり、菌の本体が配管側にある場合、水の濃度をいくら上げても、供給元はそのまま残ります。数字が一時的に下がっても、しばらくすると戻るのはこのためです。
公衆浴場における衛生等管理要領では、浴槽水の遊離残留塩素濃度について「通常0.4mg/L程度を保ち、かつ、遊離残留塩素濃度は最大1mg/Lを超えないよう努めること」と定められています。
上限が書かれている点が重要です。高ければ高いほど良い、という基準にはなっていません。
日常的に高い濃度で運用した場合、実際に出てくるのは次のような不具合です。
・配管や金属部品、ヘアキャッチャーなどの腐食が早まる
・塩素のにおいについて、利用者からの苦情が増える
・肌への刺激を訴える方が出る
・薬剤のコストが増え続ける
菌には届かないまま、設備と利用者への負担だけが積み上がる、という状態になりかねません。
ただし、高い濃度の塩素を使う場面がないわけではありません。東京都の対策資料では、ろ過器・配管の生物膜を除去する方法として、40〜50mg/L程度の塩素で5〜8時間程度循環させる高濃度塩素処理が挙げられています。
これは営業中の浴槽水に対して行うものではなく、生物膜を落とすための洗浄の工程です。日常の管理で濃度を1mg/L、2mg/Lと上げていくこととは、目的も手順もまったく違います。
なお、過酸化水素を使う方法も示されていますが、こちらは専門業者に依頼することとされています。
数字を上げることより、次の3点のほうが結果に効きます。
・毎日同じ時間に測り、記録を残す(下がりやすい時間帯の傾向が見えます)
・濃度が下がりやすい場所(打たせ湯、ジェットバスの吐出口など)でも測る
・「濃度を高めにしないと安定しない」状態が続くなら、配管側の洗浄を検討する
3つ目が、もっとも見落とされやすいポイントです。高めの塩素でようやく基準を保てている状態は、それ自体が配管に汚れが溜まっているサインであることが少なくありません。
厚生労働省『循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルについて』
東京都保健医療局『レジオネラ対策講習会② レジオネラ属菌検出時等の対応について』
雅堂では、塩素の運用状況と配管内部の状態を合わせて確認したうえで、洗浄の要否と時期をご提案しています。「濃度を上げないと安定しない」という段階でしたら、一度ご相談ください。
お電話受付 9:00-20:00 / 080-7744-9636
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月12日