レジオネラ症には、二つの病型がある
「浴槽からレジオネラ属菌が出た」という連絡を受けたとき、施設の側がまず知りたいのは、それが人にどういう形で現れる病気なのか、ということだと思います。レジオネラ症には性質のまったく違う二つの病型があり、潜伏期間も、重さも、届出の扱いも決まっています。ここでは厚生労働省の「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」の記述をもとに、施設の管理者が押さえておくべき範囲でまとめます。
結論:肺炎型とポンティアック熱、潜伏期間は2〜10日
レジオネラ症には、重い肺炎になる「レジオネラ肺炎」と、インフルエンザのような熱性疾患である「ポンティアック熱」の二つの病型があります。
潜伏期間は2〜10日とされています。入浴した日から一週間ほど経ってから発症することがある、ということです。
感染症法では全数把握の四類感染症に分類され、診断した医師はただちに最寄りの保健所に届けることが義務づけられています。
レジオネラ肺炎の症状
マニュアルは、レジオネラ肺炎にかかると、悪寒、高熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛などが起こり、呼吸器症状として痰の少ない咳、少量の粘性痰、胸痛・呼吸困難などが現れる、と記しています。
そして、症状は日を追って重くなっていく、とも書かれています。腹痛、水溶性下痢、意識障害、歩行障害を伴う場合もあります。
届出時点の死亡は3.2%(2008年〜2012年)とされています。欧米ではレジオネラ肺炎は市中肺炎の2〜8%を占め、レジオネラ属菌は肺炎球菌に次いで重要な肺炎の原因菌に挙げられています。
もう一つの病型、ポンティアック熱
ポンティアック熱は、1965年にミシガン州ポンティアックの衛生局庁舎内で起きた集団発生にさかのぼって分かった病型で、インフルエンザのような熱性疾患として現れます。
肺炎型に比べれば軽い病型ですが、施設にとって重要なのは、集団で同時に発熱が出るという点です。「同じ日に入浴した複数の人が、数日後にそろって熱を出した」という形で表面化することがあります。
名前の由来は、1976年のフィラデルフィア
レジオネラ症が独立した病気として認識されたのは1976年です。米国フィラデルフィアのホテルで在郷軍人会の州支部総会が開かれ、参加した会員221名が帰郷後に原因不明の重症肺炎を発病し、そのうち34名が死亡しました。
在郷軍人会(The Legion)にちなんで在郷軍人病と呼ばれ、半年に及ぶ研究の末に新しい病原菌が発見されて Legionella pneumophila と命名されました。この病気の出発点が、ホテルという施設で起きた事例だったということです。
かかりやすい人は、はっきりしている
マニュアルは、レジオネラ肺炎は健常者もかかるとしたうえで、糖尿病患者、慢性呼吸器疾患者、免疫不全者、高齢者、乳児、大酒家や多量喫煙者は罹りやすい傾向がある、と記しています。
技術上の指針も、高齢者、新生児及び免疫機能の低下を来す疾患にかかっている者が多い医療施設、社会福祉施設等では、衛生上の措置を徹底して講ずることが必要である、としています。
同じ菌数の浴槽でも、利用者の顔ぶれによって結果が変わります。高齢者施設や病院の浴槽が特別に扱われるのは、この理由によります。
感染するのは、直径5μm以下のエアロゾル
マニュアルは、レジオネラ肺炎は、レジオネラ属菌を包んだ直径5μm以下のエアロゾルを吸入することにより起こる気道感染症である、としています。
飲んで感染するのではなく、吸い込んで感染します。だから対策は、菌を減らすことと、細かい水滴を飛ばさないことの、両方になります。
報告されている感染源も、循環式浴槽水、シャワー、ホテルのロビーの噴水、洗車、野菜への噴霧水など、水を霧にする場面に集中しています。浴槽内で溺れて汚染水を呼吸器に吸い込んだ時に感染・発病した事例もあります。
人から人へはうつらない
マニュアルには、患者との接触によって感染したという報告はないので、患者を隔離する必要はない、と明記されています。
ここは誤解されやすいところです。レジオネラ症は人から人へ広がっていく病気ではなく、汚染された設備という一つの発生源から、多くの人が同時に感染する形をとります。だから対策は、人ではなく設備に向かいます。
国内の感染源は、入浴施設が最も多い
国内で発生する患者の感染源は入浴施設が最も多い、とマニュアルは記しています。土木・粉塵作業、園芸作業、旅行との関連も指摘されています。
一方、海外の市中集団感染では、汚染された冷却塔水から発生したエアロゾルが感染源であったケースが最も多く報告されています。
近年の国内の調査では、水たまりや自動車のエアコン、ウォッシャー液からもレジオネラ属菌が検出され、自動車運転との関連が注目されています。菌そのものは土壌や河川に生息する環境細菌で、問題になるのは人工の環境水です。
水温20℃以上の人工環境水で、菌は増える
冷却塔水や循環式浴槽水など水温20℃以上の人工環境水には、アメーバや繊毛虫など細菌を餌とする原生動物が生息しています。これらの細胞に取り込まれたレジオネラ属菌は、死滅することなく細胞内で増殖することができる、とマニュアルは説明しています。
その菌数は、水100mLあたり10〜100個から、多い時は100万個以上に達するとされています。
消毒剤が効きにくいのは、菌が生物膜や原生動物の中に守られているからです。だから、配管の生物膜を落とす作業が、消毒より先に必要になります。
届出は「ただちに」、四類感染症に分類されている
1999年4月に施行された感染症法において、レジオネラ症は全数把握の四類感染症に分類され、診断した医師はただちにその情報を最寄りの保健所に届けることが義務づけられました。
届け出るのは医師であって、施設ではありません。施設の側に来るのは、そのあとの保健所からの連絡です。
感染症法の施行後に報告された患者数は6,316例(2015年3月20日現在)。1999〜2004年は年間150例前後で推移していましたが、尿中抗原検査の保険適応化などで届出数は年々増え、2014年は1,236例(暫定値)となっています。
届出の時点で、すでに時間が経っている
マニュアルは、患者発生は医師の診断および保健所への届出で確認されることが多く、届出の時点ではすでに感染の成立から相当時間が経っている場合がある、と指摘しています。
潜伏期間が2〜10日、そこから受診、診断、届出と進みます。施設に連絡が来るころには、二週間前の浴槽の話になっていることも珍しくありません。
だからこそ、その日の遊離残留塩素の値や清掃の記録が残っているかどうかが、そのまま説明できるかどうかになります。点検表を毎日書く意味は、ここにあります。
患者が出たら、消毒せずにそのまま保存する
マニュアルは、問題が生じた時には設備の使用を中止し、浴槽水等の消毒を行わずそのままの状態で保存し、保健所等の指示を待つこと、としています。
ここは間違えやすいところです。心配だからと先に消毒してしまうと、感染源の特定ができなくなります。
医療機関側は抗菌薬投与前の呼吸器検体を確保して菌を分離し、その菌と保健所等の調査による環境由来の菌との遺伝子型を比較して、感染源を確定します。環境側の菌が消えていれば、この比較ができません。
あわせてマニュアルは、日頃から来客者名や住所などを把握しておくこと、とも記しています。
施設が日頃から準備できること
一つめは、記録です。遊離残留塩素の測定、清掃、換水、水質検査の結果。日付と数字が連続して残っていることが、いちばん強い材料になります。
二つめは、名簿です。宿泊施設なら自然に残りますが、日帰り入浴施設では意識して残す必要があります。
三つめは、シミュレーションです。マニュアルも、各施設では普段から、レジオネラ症の発生やその疑いがあった場合の対応についてシミュレーションしておく必要がある、としています。誰が使用中止を判断し、誰が保健所に連絡するかを決めておくだけでも違います。
まとめ
レジオネラ症には肺炎型とポンティアック熱の二つの病型があり、潜伏期間は2〜10日。四類感染症で、診断した医師がただちに保健所に届け出ます。
感染するのは直径5μm以下のエアロゾルを吸い込んだときで、人から人へはうつりません。国内の感染源は入浴施設が最も多いとされています。
そして、疑いが出たときに施設がすることは、消毒ではなく「使用中止と、そのままの保存」です。ここだけは、先に全員で共有しておいてください。
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出典
循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル(厚生労働省)
レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針(厚生労働省告示第264号)
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月15日