浴槽の汚れは、入浴者が持ち込む

浴槽の水がすぐ濁る。ぬめりが戻る。塩素を入れても消費が早い。その原因を「配管が汚れているから」だけで説明すると、対策は半分で止まります。

厚生労働省の「公衆浴場における衛生等管理要領」は、浴槽水の汚れがどこから来るのかを、はっきり書いています。持ち込むのは、入浴者です。

この記事では、要領が定める「入浴者に対する制限」と「掲示」の規定を読み、脱衣室の貼り紙を整えることが、なぜ水質管理そのものになるのかを解説します。

結論:掲示は、水質管理の一部である

先に結論を書きます。

浴槽水の汚染は、入浴者が持ち込む微生物と、入浴者から供給される有機物から始まります。入り口を絞らなければ、ろ過器も配管も、汚れ続けます。

入り口を絞る手段として要領が挙げているのが、「入浴者に対する制限」と、その内容を伝える「掲示」です。

つまり掲示は、接客上のお願いではなく、衛生管理の手順のひとつです。

汚れの出どころを、要領はこう書いている

要領は、浴槽水が汚染される仕組みを次のように説明しています。

「浴槽水の微生物汚染は、入浴者の体表、土ぼこり等に存在する微生物が持ち込まれることにより発生する。さらに、それらの微生物は、常に供給される入浴者からの有機質により増殖し、ろ過器、浴槽や配管の内壁等に生物膜を形成する。」

読み取れることは三つあります。

一つ、菌は外から持ち込まれること。二つ、入浴者から供給される有機質が菌を増やすこと。三つ、増えた菌はろ過器と配管の内壁に生物膜(バイオフィルム)をつくること。

配管の汚れは結果です。原因は、水に入る有機物の量です。

「入浴者に対する制限」は、四つある

要領の第1の9「入浴者に対する制限」は、営業者が入浴者に守らせるべき事項を四つ挙げています。

(1)おおむね7歳以上の男女を混浴させないこと。

(2)入浴を通じて人から人に感染させるおそれのある感染症にかかっている者、下痢症状のある者及び泥酔者等を入浴させないこと。

(3)浴槽に入る前に石ケン等を用いて身体をよく洗うとともに、出る際にもシャワー等で身体を洗い流すよう入浴者に衛生上の注意を喚起すること。

(4)浴槽内で身体を洗うこと、浴室で洗濯をすること等、公衆衛生に害を及ぼすおそれのある行為をさせないこと。

水質に直結するのは(3)と(4)です。

「かけ湯」では足りない

注意したいのは、(3)の書き方です。

要領は「かけ湯をすること」とは書いていません。「石ケン等を用いて身体をよく洗う」と書いています。

かけ湯は、身体の表面を湯で流す行為です。皮脂、あか、化粧品、整髪料は、湯をかけただけでは落ちません。

落ちなかった有機物は、そのまま浴槽水に入ります。それが塩素を消費し、菌のエサになります。

脱衣室の掲示が「入浴前にはかけ湯を」で止まっている施設は、少なくありません。要領の水準に合わせるなら、「石ケン等で身体をよく洗ってから」です。

出るときも、洗い流す

もう一つ見落とされやすいのが、同じ(3)の後半です。

「出る際にもシャワー等で身体を洗い流すよう」と書かれています。

入る前と、出るとき。掲示に書くべきは、この二回です。

掲示すべき事項は、決まっている

要領の第1の11(1)は、掲示についてこう定めています。

「脱衣室等の入浴者の見やすい場所に、浴槽内に入る前には身体を洗うこと等、公衆衛生に害を及ぼすおそれのある行為をさせないよう注意喚起する他、入浴料金、営業時間、入浴者の心得、その他必要な事項を掲示すること。」

場所の指定があります。「入浴者の見やすい場所」です。

内容の指定もあります。身体を洗うことの注意喚起、入浴料金、営業時間、入浴者の心得、その他必要な事項。

掲示物があるかどうかではなく、見える位置にあるか、内容が足りているかが問われます。

掲示は「読める位置」にあるか

現場を見ていると、掲示そのものはあるのに、機能していない例があります。

ロッカーの陰、暖簾の裏、浴室の出入口の真横。文字が小さい、色あせて読めない。

入浴者の動線は、脱衣室に入る、服を脱ぐ、浴室に入る、の順です。服を脱ぐ場所の正面が、最も読まれます。

貼り替えは、費用がほとんどかかりません。水質対策の中で、最も安い部類の施策です。

貸与品にも、決まりがある

要領の第1の11は、貸与品についても定めています。

タオルは、新しいもの又は消毒したものを渡すこと。消毒の方法は「クリーニング所における衛生管理要領」第4の消毒の方法によることとされています。

くし、ヘアブラシは、新しいもの又は消毒したものを備えること。消毒には逆性石ケン液や紫外線消毒器等が挙げられています。

カミソリは、新しいもののみを提供すること。消毒しての再使用は認められていません。

使用済みのカミソリを放置させないこと。廃棄するための容器を備えることも、構造設備の項に定められています。

洗面道具の保管箱は、定期的に清掃及び消毒をすること。

浴室側の備えも、要領は指定している

構造設備の項には、水質と入浴者の安全に関わる備品の定めがあります。

浴槽には、入浴者が容易に見える位置に温度計を備えること。

立位のシャワーは、シャワー水が浴槽及び入浴者にかからないよう十分な距離を設けるか、カーテン等を備えること。

浴室又は脱衣室の入浴者の利用しやすい場所に、1か所以上の飲料水を供給する設備を設けること。

洗い場の水が浴槽に入る構造は、汚れの持ち込みを増やします。シャワーの距離とカーテンの規定は、そこを断つためのものです。

従業者にも、決まりがある

要領は、従業者の衛生管理も定めています。衣服は常に清潔に保つこと。感染症法により就業が制限される感染症にかかっている者を従事させないこと。従業者は1年に1回以上健康診断を受けることが望ましいこと。

入浴者に求める衛生水準は、まず従業者が満たしている必要があります。

自主管理マニュアルを、つくる

要領は、自主管理体制についても定めています。

営業者は、自主管理マニュアル及びその点検表を作成し、従業者に周知徹底すること。

掲示の内容、貸与品の扱い、清掃の頻度。口頭で伝えているだけでは、人が替わると消えます。紙にして、点検表で回すところまでが、要領の求める水準です。

掲示文のサンプル

要領の内容を、そのまま掲示文にすると次のようになります。参考にしてください。

・浴槽に入る前に、石ケン等を用いて身体をよく洗ってください。

・浴槽から出る際にも、シャワー等で身体を洗い流してください。

・浴槽の中で身体や髪を洗わないでください。

・タオルを浴槽に入れないでください。

・下痢症状のある方、感染症にかかっている方、酔われている方のご入浴はご遠慮ください。

・浴室内での洗濯はご遠慮ください。

・使用済みのカミソリは、備え付けの容器に廃棄してください。

文言は施設に合わせて調整してかまいません。外してはいけないのは、「石ケン等を用いて身体をよく洗う」という一文です。

掲示を変えると、水が変わる(雅堂の解説)

ここからは、私たちが現場で見ている範囲の話です。

掲示を「かけ湯を」から「石ケン等で身体をよく洗ってから」に変えた施設で、塩素の消費が落ち着く例があります。

理屈は単純で、浴槽水に入る有機物が減れば、塩素が消費される量も減るからです。残留塩素が保ちやすくなれば、菌が増えにくい状態を維持しやすくなります。

ただし、掲示だけで解決するわけではありません。すでに配管内に生物膜ができている場合、入り口を絞っても、内側から汚れが供給され続けます。

順番があります。配管を洗浄して内側の汚れを落とし、そのうえで掲示と運用で入り口を絞る。この二つが揃って、はじめて水質が安定します。

まとめ

浴槽水の汚染は、入浴者の体表に付着した微生物と、入浴者から供給される有機質から始まります。

要領は「入浴者に対する制限」を四項目定め、その内容を入浴者の見やすい場所に掲示するよう求めています。

掲示の要点は、「かけ湯」ではなく「石ケン等を用いて身体をよく洗う」こと、そして出るときにも洗い流すことです。

貸与品、構造設備、従業者、自主管理マニュアルにも、それぞれ具体的な定めがあります。

掲示の貼り替えは、水質対策の中で最も費用のかからない施策です。配管洗浄と組み合わせてください。

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出典

公衆浴場における衛生等管理要領(厚生労働省)

循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル(厚生労働省)

レジオネラ対策のページ(厚生労働省)

執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)

更新日:2026年9月15日