防カビ製品の説明に「JIS規格準拠」と書かれているのを見たことがあると思います。当社のページにも書いています。
では、その試験は何をしているのか。
先に答えを書きます。試験片にカビの胞子を接種して、カビが育つ条件に置いて、二週間から四週間、実際にカビを生やします。そのうえで、菌糸がどれだけ広がったかを見ます。
この記事では、その規格を制度の側から読みます。何が測られていて、何が測られていないのかを、はっきりさせるためです。
根拠は産業標準化法(昭和二十四年法律第百八十五号)です。公布は一九四九年六月一日。もとの名前は工業標準化法で、令和元年七月一日に現在の名称になりました。
第二条第一項は、産業標準化の対象を並べています。第四号がこれです。
鉱工業品に関する試験、分析、鑑定、検査、検定又は測定の方法。
つまり、測り方そのものが、JISの対象として法律に書かれています。かび抵抗性試験は、ここに入ります。
決めるのは大臣です。第十一条は、主務大臣は、産業標準を制定しようとするときは、あらかじめ調査会の議決を経なければならない、としています。調査会とは、第三条により経済産業省に置かれる日本産業標準調査会のことです。
制定されたものは第十九条により公示され、第二十条第一項により日本産業規格と呼ばれます。
そして第二十条第二項。何人も、(略)産業標準でないものについて日本産業規格又はこれと紛らわしい名称を用いてはならない。
JISという三文字は、名乗った者勝ちの言葉ではありません。
第十七条に、こうあります。
主務大臣は、(略)制定し、又は確認し、若しくは改正した産業標準がなお適正であるかどうかを、その制定又は確認若しくは改正の日から少なくとも五年を経過する日までに調査会の審議に付し、速やかに、これを確認し、又は必要があると認めるときは改正し、若しくは廃止しなければならない。
この条文が実際に効いているかどうかは、規格の履歴を見れば分かります。あとで二つ並べます。
規格番号と名称は、JIS Z 2911 かび抵抗性試験方法。英文名はMethods of test for fungus resistanceです。
制定は一九五七年三月二十九日。最新の改正は二〇二三年十一月二十日。日本規格協会が公開している書誌情報では、日本語版は四十ページとされています。
対応する国際規格はISO 846:2019、IEC 60068-2-10:2005、ISO 9022-11:2015で、いずれも修正して採用(MOD)と整理されています。
適用範囲は、こう書かれています。この規格は、特にかび抵抗性を必要とする工業製品又は工業材料のかびに対する抵抗性の試験方法について規定する。
七十年近く前からある試験です。最近になって流行りで作られた基準ではありません。
この規格は、ひとつの試験方法ではありません。目次を見ると、対象ごとに章が分かれています。
第七章が一般工業製品の試験。第八章が繊維製品の試験。第九章が塗料の試験。第十章が皮革及び皮革製品の試験。
さらに附属書があります。附属書Aがプラスチック製品の試験、附属書Bが電気製品・電子製品の試験、附属書Cが光学機器・光通信機器の試験です。
天井や壁に塗る防カビコーティングは、第九章の塗料の枠で扱われます。ですから「JIS Z 2911で試験済み」とだけ聞いても、内容は確定しません。どの区分で試験したのかまで聞いてください。
試験機関が公開している試験条件によると、使われるかびは四種類です。
Aspergillus niger(黒麹かび)、Penicillium citrinum(青かび)、Chaetomium globosum、Myrothecium verrucaria。
培養は二十六度プラスマイナス二度。湿式法で二週間、乾式法で四週間。
判定は、菌糸がどれだけ広がったかで付けます。接種した部分に菌糸の発育が認められなければ〇。発育が全面積の三分の一を超えなければ一。三分の一を超えれば二。
最初の二つは、前の記事に出てきた名前です。文部科学省のカビ対策マニュアル基礎編の表では、Penicillium citrinumの最低水分活性は〇・八三、Aspergillus nigerは〇・八八とされています。日本の住宅で実際に困るカビが、そのまま試験菌になっています。
正直な話をひとつ書きます。
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が、二〇〇九年五月二十五日付で「かび抵抗性試験用菌株調査報告書」を公表しています。かび抵抗性試験用菌株調査委員会がまとめたものです。
かび抵抗性試験に使うAspergillus nigerには、二つの系統が指定されています。A系統がNBRC 6342(NRRL 334)、B系統がNBRC 6341(NRRL 3536)。A系統は計測機器、木竹製品、ガラス製品、繊維製品、皮革、皮革製品、プラスチック製品、電気・電子製品に、B系統は塗料、被覆電線に使うとされています。
報告書は、この二株が入れ替わっていたことが判明した、としています。そして、我が国では五十年以上前に入れ替わっていた、と書かれています。規格の制定年と、ちょうど重なります。
ただし、結論はこうです。JIS Z 2911をはじめとするかび抵抗性試験においては、これら四株の間には有意な差はなく。
そのうえで、これらの菌株の使い分けが必要かどうかについて、検討していくことが望まれる、と締めくくられています。
つまり、試験結果への影響はなかった。ただ私は、影響がなかったことより、この経緯が公に調べられて公表されていること自体のほうが大事だと思っています。試験というのは、そういう積み重ねの上にあります。
ここが、いちばん誤解されている点です。
抗菌と防カビは、別の規格で測られています。
JIS Z 2801 抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果。制定は二〇〇〇年十二月二十日、改正が二〇〇六年五月二十日と二〇一〇年十二月二十日。その後、二〇一七年十月二十日と二〇二二年十月二十日に確認されています。二十ページ。対応国際規格はISO 22196:2007(MOD)です。
五年ごとの確認が、そのまま日付に出ています。先ほどの第十七条です。
適用範囲は、プラスチック製品、金属製品、セラミックス製品など抗菌加工を施した製品(中間製品を含む。)の表面における細菌に対する抗菌性試験方法及び抗菌効果について規定する、とされています。繊維製品と光触媒抗菌加工製品は、この規格の対象外です。
試験に使うのは細菌です。黄色ぶどう球菌と大腸菌。三十五度、相対湿度九十パーセント以上で二十四時間培養し、抗菌活性値を出します。無加工品の生菌数の対数から加工品の対数を引いた値で、二・〇以上であれば抗菌効果あり、とされています。二・〇は、生菌数が百分の一になったという意味です。
細菌とカビは、生物として別です。抗菌活性値が二・〇を超えていても、それはカビについて何も言っていません。
抗菌だからカビも生えない、という言い方は、規格の側から見ると成り立ちません。
ここも正直に書きます。
産業標準化法第三十条は、主務大臣の登録を受けた者の認証を受けて、日本産業規格に適合するものであることを示す特別な表示を付することができる、としています。これがJISマークです。第三十一条には、加工技術についての同じ仕組みがあります。
表示の管理は厳しい。第三十四条は、認証を受けずにJISマークやこれと紛らわしい表示を付すことを禁じています。違反すると第七十八条第一号により一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金。法人には第八十一条第一号により一億円以下の罰金刑が科されます。
そのうえで。JIS Z 2911は試験方法を定めた規格であって、製品の合否を定めた規格ではありません。ですから、防カビ材料について正確に言えるのは、JIS Z 2911の方法で試験して、この結果だった、というところまでです。JISマークを取得した、ではありません。
当社が「JIS規格準拠」と書いているのも、この意味です。マークの認証ではありません。同じ言葉に見えても、制度上は別のものです。ここを曖昧にしたまま売るのは、第二十条第二項の趣旨からも、よくないと考えています。
第五十七条は、試験所の登録を定めています。国内の試験所は、試験方法の区分ごとに主務大臣の登録を受けることができ、その基準は、国際標準化機構及び国際電気標準会議が定めた試験所に関する基準とされています。
第五十八条第一項により、登録試験事業者は、登録を受けた区分の試験を行ったとき、定められた標章を付した証明書を交付することができます。この標章の不正使用には、第七十九条第一号で五十万円以下の罰金が置かれています。
試験成績書は、紙の見た目ではなく、この仕組みで読むものです。
ここからは当社の話です。数字に不利なことも書きます。
かび抵抗性試験は、カビが育つ条件を意図的に作って行います。胞子を接種し、温度と湿度を与えます。ですから、結果が〇であることは、その材料がカビの栄養として使われにくいことを示します。
示していないことがあります。結露が続く壁で、何年もつか。これは試験では出ません。
前の記事に書いたとおり、カビの条件は水分、温度、酸素、栄養の四つです。試験で測れるのは、このうち栄養の部分です。水分と温度は建物側の条件で、塗膜では変えられません。
ですから当社は、結露が続いている部屋では、先に断熱や換気の話をします。建物側の工事が先だと判断した場合は、そのようにお伝えします。試験成績書を根拠に、どんな部屋でも再発しません、とは申し上げません。
三つです。
一、規格番号と区分。JIS Z 2911のどの区分で試験したか。塗料なのか、一般工業製品なのか。
二、試験所。どこが出した証明書か。標章が付いているか。
三、抗菌なのか、かび抵抗性なのか。JIS Z 2801は細菌の試験です。カビの話をしているのに抗菌の成績書が出てきたら、それは別の話をされています。
この三つを聞いて答えが返ってこない場合は、いったん止めたほうがよいと思います。
産業標準化法第二条第一項第四号により、試験・分析・測定の方法そのものがJISの対象とされています。第十一条により主務大臣が調査会の議決を経て制定し、第十九条で公示、第二十条第一項で日本産業規格と呼ばれます。第二十条第二項は、規格でないものに日本産業規格又は紛らわしい名称を用いることを禁じています。
第十七条により、制定・確認・改正の日から少なくとも五年を経過する日までに、調査会の審議に付されます。
JIS Z 2911 かび抵抗性試験方法は、一九五七年三月二十九日制定、二〇二三年十一月二十日改正。適用範囲は、特にかび抵抗性を必要とする工業製品又は工業材料のかびに対する抵抗性の試験方法です。一般工業製品、繊維製品、塗料、皮革及び皮革製品に章が分かれ、附属書でプラスチック製品、電気製品・電子製品、光学機器・光通信機器を扱います。
使われるかびはAspergillus niger、Penicillium citrinum、Chaetomium globosum、Myrothecium verrucaria。二十六度前後で二週間から四週間培養し、菌糸の広がりで判定します。
製品評価技術基盤機構の報告書では、指定されていたAspergillus nigerの二株が五十年以上前に入れ替わっていたことが判明したものの、これら四株の間に有意な差はなかった、とされています。
JIS Z 2801 抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果は、二〇〇〇年制定、二〇一〇年改正、二〇二二年確認。細菌を使う試験で、抗菌活性値二・〇以上が抗菌効果とされます。繊維製品と光触媒は対象外です。
抗菌とかび抵抗性は、別の規格、別の生物、別の判定です。
株式会社雅堂では、天井・壁・店舗の防カビ施工を行っています。使う材料の試験結果と、その試験が何を示していて何を示していないかを、先にお伝えします。建物側の工事が先だと判断した場合は、そのようにお伝えします。
お電話受付 9:00-20:00 / 080-7744-9636
JIS Z 2911:2023 かび抵抗性試験方法(日本規格協会)
JIS Z 2801:2010 抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果(日本規格協会)
かび抵抗性試験(JIS Z 2911)(日本繊維製品品質技術センター)
抗菌性試験・非繊維製品(JIS Z 2801)(日本繊維製品品質技術センター)
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月17日