特定建築物では、空気環境の測定を二か月以内ごとに一回、年六回行います。基準を外れれば改善が必要になります。
では実際、どの項目でいちばん引っかかっているのか。
東京都が立入検査の結果を項目別の不適率として公表しています。これを見ると、多くの人が想像する答えとは違う順番になっています。
東京都健康安全研究センターの「令和七年度ビル衛生管理講習会資料」に、令和六年度に実施した立入検査での空気環境測定の項目別不適率が載っています。
基準値を逸脱した測定点の数を、測定点の総数で割った値です。
相対湿度 23.3パーセント
二酸化炭素 10.9パーセント
ホルムアルデヒド 4.0パーセント
温度 0.9パーセント
浮遊粉じん 0.1パーセント
一酸化炭素 0.1パーセント
気流 0.0パーセント
上位二つが相対湿度と二酸化炭素。この二つで、実質的に不適の大半を占めています。
まず驚かれるのがここです。浮遊粉じんの不適率は0.1パーセント。ほぼ出ません。
基準は空気一立方メートルにつき0.15ミリグラム以下ですが、現在の建物ではこの値を超えることがまれになっています。エアフィルターの性能が上がったこと、屋内喫煙が減ったことなどが背景にあると考えられます。
ここで、実務上とても重要な注意があります。
浮遊粉じんが基準内であることは、エアコンの内部がきれいであることを意味しません。
測定しているのは居室の空気であって、機械の中ではないからです。熱交換器のフィンにほこりが詰まっていても、送風ファンの羽根が汚れていても、吹き出した空気中の粉じん濃度が0.15mg以下なら、この項目は適合します。
「測定に通っているから洗わなくていい」という判断が成り立たないのは、このためです。
不適率23.3パーセント、堂々の一位が相対湿度です。
建築物衛生法施行令第二条は、相対湿度を四十パーセント以上七十パーセント以下と定めています。この不適のほとんどは、下限の四十パーセントを下回るもの、つまり冬の乾燥です。
東京都の資料は、冬季の相対湿度不適が高い要因として次の三つを挙げています。
室内の温度が高いために空調機が冷房運転となり、加湿装置が作動停止した。
加湿装置の点検・清掃の不備により加湿能力が低下した。
空調機の老朽化等により加湿能力が不足している。
一つ目は、意外に多い原因です。冬でも人や機器の発熱で室温が上がり、空調が冷房側に切り替わる。すると加湿器が止まる。設計上は正しい動作ですが、結果として湿度が落ちます。
二つ目は、まさに清掃の問題です。加湿装置のスプレーノズルが詰まる、気化式の加湿材が目詰まりする、ストレーナにスケールが溜まる。どれも加湿量の低下に直結します。
そして加湿装置は、施行規則で使用開始時および一月以内ごとに一回の点検、一年以内ごとに一回の清掃が義務づけられている設備です。
不適率10.9パーセント。基準は1,000ppm以下です。
興味深いのは、この数字の推移です。東京都の資料に載っている二酸化炭素不適率の経年変化は、次のようになっています。
令和元年度 10.6パーセント
令和二年度 2.0パーセント
令和三年度 1.5パーセント
令和四年度 3.7パーセント
令和五年度 9.6パーセント
令和六年度 10.9パーセント
令和二年度と三年度が極端に低い。コロナ禍で在室者が減り、同時に窓開け換気が徹底された時期です。
そして令和四年度から上がり始め、令和六年度には令和元年度の水準を超えました。
東京都は、その原因としてテレワークから出社へ戻る動きと、もう一つ、次のような事情を挙げています。
全熱交換器が換気設備であることを知らずにスイッチをオフにしており、窓開けで換気していたため換気不足になっていた。
これは現場でよく見る話です。全熱交換器は見た目が空調機に似ているため、「使っていない空調」だと思ってスイッチを切られてしまう。切ると外気が入らなくなり、二酸化炭素が上がります。
測定で引っかかったとき、最初に確認すべきはここかもしれません。
空気環境の測定結果以上に不適が多いのが、帳簿書類です。
同じ資料によれば、帳簿書類の検査項目のうち空調管理の不適率は47.6パーセント。二施設に一施設近くが指摘を受けています。
そのうち、「排水受け・加湿装置等の点検・清掃」の不適率が38.8パーセントと特に高い。
指摘の中身も具体的に書かれています。空気調和機の点検記録に電流値やゲージ圧等の記載はあっても、排水受け(ドレンパン)の汚れや閉塞の状況についての点検・清掃の記録がない、というものです。
つまり、点検はしているつもりでも、記録の項目にドレンパンが入っていない。だから記録上は「やっていない」ことになる。
加湿装置についても、点検・清掃を実施していない、あるいは実施していても清掃記録に具体的な清掃場所や方法、使用した薬剤等の記載がない事例が多い、とされています。
東京都は、空調方式別に点検清掃記録の審査結果も出しています。個別空調方式の不適率が、他の空調方式に比べて高い傾向です。
理由も書かれています。設置台数が多い、設置場所が専用部内の天井内で狭いスペースに機器や配管が設置されている。つまり、天井カセット型がたくさんある建物ほど、記録が追いつかないということです。
テナントビルでは、専用部の設備をテナントが独自に点検・清掃しているため、ビル管理者が状況を把握していない、記録を保管していない、というケースも指摘されています。
この負担については、国も緩和策を示しています。平成二十七年三月三十一日健衛発0331第9号の厚生労働省通知では、同一の設置環境下にある空気調和設備をグループ化し、各グループの代表設備を決めて、各階ごとにその代表設備を月一回目視により点検し、その他については給気の異臭の有無等の確認により状況を判断する、という方法が示されています。
台数が多くて全数点検が難しい場合は、この考え方で組み直すことができます。ただし、グループ分けの根拠と代表設備の選定理由は記録に残しておく必要があります。
設備管理の検査項目についても、不適率が公表されています。空調管理全体では6.9パーセントで、内訳は次のとおりです。
居室内の空気環境等 4.6パーセント
グリースフィルタ等の清掃・管理 3.8パーセント
冷却塔の汚れ 2.4パーセント
空調機の洗浄・交換・整備 1.4パーセント
空調機械室の清掃・管理 1.0パーセント
吹出口・還気口の汚れ・障害物 0.8パーセント
グリースフィルタが二番目に来ているのが目を引きます。厨房の排気系統は各テナントが管理することが多く、ビル管理者が把握しづらい。東京都は、清掃が十分でないと排気不良やダクト火災等につながるおそれがあると注意を促しています。
相対湿度が下限を割った場合。まず加湿装置が動いているかを確認します。冷房側に切り替わって止まっていないか。次にノズルや加湿材の詰まり、ストレーナのスケール。それでも足りなければ、能力そのものの再評価が必要です。
二酸化炭素が1,000ppmを超えた場合。在室人数の変化、外気取入ダンパの開度、全熱交換器のスイッチ、外気取入口のフィルターの詰まり。この順で見ます。
どちらの場合も、原因究明と改善計画を記録に残すところまでがセットです。東京都は、空気環境測定結果が管理基準を満たしていない場合、原因究明を行い改善計画を立てるよう求めています。
正直に書きます。エアコンクリーニングで直せる不適と、直せない不適があります。
洗浄が効くのは、加湿装置の目詰まりによる加湿能力低下、外気取入系統やフィルターの目詰まりによる換気量不足、そして送風ファンや熱交換器の汚れによる風量低下です。
洗浄では直らないのは、設計時からの換気能力不足、空調機の老朽化による能力不足、在室人数の増加そのもの。これらは設備の追加や更新の話になります。
当社にご依頼いただいた場合も、現地を見て「これは洗浄では解決しません」とお伝えすることがあります。洗ってから測って変わらなければ、費用だけが出ていくことになるからです。
東京都の令和六年度立入検査における空気環境測定の項目別不適率は、相対湿度23.3パーセント、二酸化炭素10.9パーセント、ホルムアルデヒド4.0パーセント、温度0.9パーセント、浮遊粉じん0.1パーセント、一酸化炭素0.1パーセント、気流0.0パーセント。
浮遊粉じんはほぼ出ません。ただし、それはエアコン内部がきれいなことを意味しません。測っているのは居室の空気です。
相対湿度の不適は、ほぼ冬の乾燥。原因の一つに加湿装置の点検・清掃の不備が挙げられています。
二酸化炭素の不適率はコロナ禍後に上昇し、令和六年度は10.9パーセント。全熱交換器のスイッチが切られていた例が挙げられています。
帳簿書類では空調管理の不適率が47.6パーセント、うち「排水受け・加湿装置等の点検・清掃」が38.8パーセント。記録にドレンパンの項目がないケースが目立ちます。
個別空調方式は記録の不適率が高い傾向で、グループ化点検という緩和策が国から示されています。
株式会社雅堂では、業務用エアコンの分解洗浄と、洗浄前後の記録づくりまでお手伝いしています。現地を見てからのお見積りです。
東京都健康安全研究センター ビル衛生管理講習会資料(令和七年度)
建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令(e-Gov法令検索)
建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
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