「洗って直りますか」。業務用エアコンの相談で、いちばん多い質問です。
正直に言うと、洗って直るものと、洗っても直らないものがあります。そして後者にお金をかけると、翌年また同じ相談をすることになります。
この記事では、洗浄と入れ替えの分かれ目を、公的な資料に書かれている「年数」から整理します。当社にとっては洗浄を受注できないほうが損になる話ですが、判断材料としては必要なものだと考えています。
エアコンの寿命という言葉は、実は三つの違うものを指しています。
一つ、税務上の耐用年数。減価償却の計算に使う年数です。
二つ、設計上の標準使用期間。安全に使える期間として、メーカーが表示している年数です。
三つ、補修用性能部品の保有期間。修理のための部品が手に入る年数です。
この三つは目的が違うので、数字も違います。混ぜて考えると判断を誤ります。
まず税務上の耐用年数です。根拠は減価償却資産の耐用年数等に関する省令の別表第一にあります。
建物附属設備の「冷房、暖房、通風又はボイラー設備」の欄には、二つの細目が並んでいます。
冷暖房設備(冷凍機の出力が二十二キロワット以下のもの)は、十三年。
その他のものは、十五年。
一方、器具及び備品の「冷房用又は暖房用機器」は、六年です。
同じエアコンでも、建物に組み込まれた設備として扱うか、動かせる備品として扱うかで、年数が倍以上変わります。天井カセット型やビルトイン型は建物附属設備、ウィンドウ型や移動可能な機器は器具備品、というのが実務上の整理です。
ただし、この年数は会計上の取り決めであって、機械がその年で壊れるという意味ではありません。十五年を過ぎても問題なく動いている機器はいくらでもありますし、七年で駄目になる設置環境もあります。
次に、安全の側の年数です。
平成二十一年四月一日から、長期使用製品安全表示制度が施行されています。電気用品安全法の技術基準省令の改正によるもので、対象は五品目。扇風機、エアコン、換気扇、洗濯機、ブラウン管テレビです。
この五品目には、本体への表示が義務づけられています。表示する内容は三つです。
製造年。
設計上の標準使用期間。
そして、設計上の標準使用期間を超えて使用されますと、経年劣化による発火・けが等の事故に至るおそれがあります、という趣旨の注意。
設計上の標準使用期間は、経済産業省の資料で次のように定義されています。
当該製品の製造又は輸入事業者が、標準的な使用条件の下で使用した場合に安全上支障なく使用することができる標準的な期間として、設計上設定するもの。
そして年数の決め方は、加速試験、耐久試験等の科学的見地から行われる試験に基づき、経年劣化により安全上支障が生じるおそれが著しく少ないことを確認して設定する、とされています。
エアコンについては日本産業規格 JIS C9921-3 が対応しています。年数はメーカーごと、機種ごとに設定されるので、一律ではありません。本体の銘板か、その近くの表示を見れば書かれています。
ここで押さえておきたいのは、この年数が「壊れる年」ではなく「安全上の目安」だという点です。超えたら即危険という意味ではありませんが、超えた機器は経年劣化による事故の確率が上がる、というのがこの制度の前提です。
では、経年劣化はどういう形で事故になるのか。
製品評価技術基盤機構(NITE)が二〇二〇年六月に公表した注意喚起に、エアコンと換気扇の事故がまとめられています。
エアコンの事故は2015年度から2019年度の5年間に合計263件発生し、うち火災が244件、死亡事故が6件(7名)です。
九割以上が火災です。エアコンは、経年劣化が火災につながる機器だということが、この数字から読み取れます。
同じ資料には、換気扇の事例も載っています。
約18年使用した換気扇において、長期間の使用によりモーター巻線の絶縁性能が低下し、ショートして出火する事故が発生した。
モーターの巻線には絶縁被覆があります。熱と振動と湿気で、この被覆が年単位で劣化していきます。被覆が破れて導線どうしが接触すれば、短絡です。
エアコンの送風ファンモーターも、同じ構造を持っています。厨房の油煙や、湿度の高い環境では劣化が早くなります。
そして重要なのは、この劣化が洗浄では戻らないということです。外側の汚れは落とせますが、巻線の内部で進んだ絶縁の劣化は、洗っても元には戻りません。
もう一つ、古い機器に効いてくる法律があります。フロン排出抑制法です。
業務用のエアコンディショナーは第一種特定製品にあたり、管理者には点検義務があります。三か月に一回以上の簡易点検は全機器が対象、定期点検は、エアコンで五十キロワット以上なら一年に一回以上、七・五キロワット以上五十キロワット未満なら三年に一回以上です。
この法律には、もう一つ重要な規定があります。冷媒が漏えいしている状態のまま、点検や修理をせずに冷媒を充塡することは、原則として禁止されています。
古い機器で「毎年ガスを入れれば冷える」という運用をしている現場がありますが、これは法律上できません。漏えい箇所を特定して修理するか、機器を更新するかの二択になります。
さらに、算定漏えい量が年間千トンCO2以上になる事業者には、国への報告義務があります。台数の多い施設では、古い機器の漏えいが集計に効いてきます。
つまり、経年劣化した機器を「だましだまし使う」ことは、以前より難しくなっています。
ここからが本題です。
洗浄で戻るのは、汚れが原因で落ちていた性能です。
熱交換器のアルミフィンに詰まったほこりと油分。送風ファンの羽根に積もった汚れ。ドレンパンとドレン配管の閉塞。フィルターの目詰まり。匂いの発生源になっている内部の微生物。これらは洗えば取れます。取れれば、風量も熱交換効率も戻ります。
戻らないのは、部品そのものが劣化しているものです。
モーターの巻線の絶縁低下。圧縮機の摩耗や効率低下。冷媒配管の腐食による漏えい。基板の電解コンデンサの容量抜け。熱交換器のアルミフィンの腐食や、銅管との接合部の劣化。ドレンポンプやフロートスイッチの動作不良。
これらは洗浄の対象外です。洗ってきれいになっても、症状は残ります。
洗って戻るのかどうかは、洗う前にある程度は見分けられます。
一つ、吸込口と吹出口の温度差。冷房運転で十度前後が目安です。フィルターとフィンが汚れているだけなら、洗浄後にこの差は回復します。洗っても差が出ないなら、冷媒量か圧縮機の問題です。
二つ、消費電流。クランプメーターで測り、前年の同時期と比べます。汚れによる効率低下なら洗浄で下がります。下がらなければ、機械側です。
三つ、運転音と振動。ファンの汚れによる偏りなら、洗浄でバランスが戻って静かになります。軸受けから出ている音は、洗っても変わりません。
四つ、冷媒圧力。これは専門の測定が必要ですが、漏えいの有無はここで分かります。漏えいしているなら、洗浄より先に修理か更新の判断です。
当社では、現地調査のときにこの範囲を見てから見積りを出しています。洗っても直らないと判断した場合は、その旨をお伝えします。
判断の目安を、具体的に書きます。
設計上の標準使用期間を大きく超えていて、かつ不具合が出ている場合。年数だけでは判断材料になりませんが、年数と症状が重なっているときは更新を検討する局面です。
冷媒の漏えいが確認された場合。修理費が機器代の半分を超えるようなら、更新のほうが結果的に安くつくことが多いです。
補修用性能部品がすでに手に入らない場合。メーカーが取扱説明書などで公表している保有期間を過ぎていると、故障したときに直せません。繁忙期に止まると、営業への影響がそのまま損失になります。
洗浄したのに、数字が戻らなかった場合。これがいちばん明快です。温度差も消費電流も改善しないなら、原因は汚れではありません。
年間の稼働時間が極端に長い場合。二十四時間運転のサーバー室や、十四時間営業の店舗では、同じ年数でも実際の稼働時間は倍近く違います。カレンダーの年数ではなく、動かした時間で考えるほうが実態に合います。
逆に、洗浄で十分なケースもはっきりしています。
設置から十年以内で、大きな故障歴がない場合。この段階の性能低下は、ほとんどが汚れによるものです。
匂いが主な不満である場合。匂いは内部の微生物と汚れが原因なので、分解洗浄と防カビ処理で解決します。機器を替えても、洗浄していない状態で使えばまた同じことになります。
風量が落ちている場合。フィルター、フィン、送風ファンの汚れを取れば戻ります。
電気代が上がっている場合。汚れによる効率低下なら洗浄で戻ります。フィルター清掃だけでも年間で効果が出ることは、資源エネルギー庁の公表値が示しています。
複数台のうち一部だけ調子が悪い場合。同じ年式で同じ環境なら、機械の寿命ではなく、その一台の汚れ方や設置条件の問題である可能性が高くなります。
まとめると、順番はこうなります。
最初に、年数を確認する。本体の表示で製造年と設計上の標準使用期間を見ます。
次に、症状を数字にする。温度差、消費電流、運転音。前年との比較ができれば、なお確実です。
そのうえで、汚れが原因になりうる症状かどうかを切り分ける。切り分けがつかない場合は、まず洗浄して、その前後で数字を比べます。洗浄は更新より安く、結果が数字で出るので、判断材料としても機能します。
洗浄して数字が戻れば、そのまま使えます。戻らなければ、更新の検討に進む。この順番なら、無駄な出費が最小になります。
記録を残しておくことも忘れないでください。実施日と、作業前後の測定値。これがあると、次の年の判断が楽になります。
エアコンの「年数」には、税務上の耐用年数、設計上の標準使用期間、補修用性能部品の保有期間という三つがあり、目的も数字も違います。
減価償却資産の耐用年数等に関する省令では、建物附属設備の冷暖房設備(冷凍機の出力が二十二キロワット以下のもの)が十三年、その他のものが十五年、器具及び備品の冷房用又は暖房用機器が六年とされています。
長期使用製品安全表示制度は平成二十一年四月一日施行で、エアコンを含む五品目に、製造年・設計上の標準使用期間・経年劣化による事故のおそれの表示を義務づけています。
NITEの公表値では、エアコンの事故は二〇一五年度からの五年間で二百六十三件、うち火災が二百四十四件、死亡事故が六件(七名)。換気扇では約十八年使用でモーター巻線の絶縁性能が低下し、ショートして出火した事例が報告されています。
フロン排出抑制法により、漏えいしたまま冷媒を充塡することは原則として禁止されています。古い機器を補充でしのぐ運用はできません。
洗浄で戻るのは汚れによる性能低下まで。部品の劣化は洗っても戻りません。
迷ったときは、まず洗浄して前後の数字を比べる。それが更新の判断材料になります。
株式会社雅堂では、業務用エアコンの現地調査の際に、洗浄で改善が見込めるかどうかも含めてお伝えしています。洗っても直らないと判断した場合は、そのようにお伝えします。
製品評価技術基盤機構(NITE) エアコン・換気扇の事故に注意
フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
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