業務用エアコンの見積りに伺うと、点検の話は出てきます。三か月に一回、見ています、と。
そのあとに、では記録はどこにありますか、と聞くと、答えが止まることがあります。
やっていないわけではありません。やっているのに、残っていない。フロン排出抑制法で問題になるのは、たいていこちらです。
この記事では、残すべき記録が何種類あって、それぞれ何年なのかを、条文と告示から整理します。
フロン排出抑制法が「第一種特定製品」と呼んでいるものが、この話の対象です。
法第二条には、次のように書かれています。
この法律において「第一種特定製品」とは、次に掲げる機器のうち、業務用の機器(一般消費者が通常生活の用に供する機器以外の機器をいう。)であって、冷媒としてフロン類が充塡されているもの(第二種特定製品を除く。)をいう。
掲げられているのは二つで、エアコンディショナーと、冷蔵機器及び冷凍機器(冷蔵又は冷凍の機能を有する自動販売機を含む。)です。
つまり、業務用エアコンと、業務用の冷蔵庫・冷凍庫・ショーケース・製氷機。店舗の天井カセットも、事務所のビル用マルチも、厨房の冷蔵庫も入ります。
家庭用のルームエアコンは入りません。ただし、事務所に家庭用機器を付けている場合は、業務用として使われているかどうかで判断が分かれます。迷ったら機器の銘板と、購入時の書類を確認してください。
ひとつにまとめて「フロンの記録」と呼んでしまうと、混乱します。性格の違うものが三つあります。
一つ、点検・整備の記録簿。機器を使っている間、ずっと書き足していくものです。
二つ、廃棄するときの書類。回収依頼書、委託確認書、引取証明書。
三つ、算定漏えい量の報告。一定量を超えた事業者だけが、国に出すものです。
保存期間も、根拠も、罰則の有無も、三つとも違います。順番に見ていきます。
これは管理者がつくるものです。設備業者が持っているものではありません。
記載する事項は、第一種特定製品の管理者の判断の基準となるべき事項という告示の第四に定められています。八つあります。
管理第一種特定製品の管理者の氏名又は名称。
管理第一種特定製品の所在及び当該管理第一種特定製品を特定するための情報。
管理第一種特定製品に冷媒として充塡されているフロン類の種類及び量。
点検の実施年月日、当該点検を行った者の氏名、並びに当該点検の内容及びその結果。
修理の実施年月日、当該修理を行った者の氏名、並びに当該修理の内容及びその結果。
修理が困難である理由及び修理の予定時期。
充塡した年月日、第一種フロン類充塡回収業者の氏名、並びに充塡したフロン類の種類及び量。
回収した年月日、回収した第一種フロン類充塡回収業者の氏名、並びに回収したフロン類の種類及び量。
読んでいただくと分かるとおり、これは「点検した日」だけを書く欄ではありません。
修理が困難である理由と、修理の予定時期。ここが入っているのが、この記録簿の性格をよく表しています。
漏えいを見つけたのに直せなかったなら、直せない理由と、いつ直すつもりなのかを書け、ということです。放置を記録に残させる仕組みになっています。
機器一台ごとに一冊、というのが基本の形です。同じ建物に十台あれば、十台分です。
告示は「当該管理第一種特定製品を廃棄するまで、保存すること」としています。
つまり、機器を使っている間はずっとです。三年でも五年でもありません。設置から廃棄までの全期間です。
そして廃棄したら終わり、でもありません。環境省のフロン排出抑制法ポータルサイトは、点検・整備の記録について次のように書いています。
当該製品の廃棄等を行い、冷媒の引渡しを完了した日から3年を経過するまで保存する必要があります
機器の一生に、さらに三年。これが点検記録簿の保存期間です。
十五年使った機器なら、記録簿は十八年分残ることになります。
現場で多いのは、機器を入れ替えたときに古い記録簿を処分してしまうケースです。新しい機器の記録簿を作り始めた時点で、前の機器の分はもう不要だと考えてしまう。
そうではありません。引渡しが完了した日から三年です。廃棄工事の書類と一緒に保管してください。
これも見落とされがちな一文です。告示は次のように求めています。
管理第一種特定製品を他者に売却する場合、記録簿又はその写しを当該管理第一種特定製品と合わせて売却の相手方に引き渡すこと
中古で売却する場合、記録簿は機器についていきます。
テナントの入れ替えや事業譲渡で設備ごと引き継ぐ場合も、同じ考え方になります。引き継ぐ側は、前の管理者に記録簿を求めてください。
逆に、中古機器を買って「記録簿がない」と言われたら、その機器の履歴は分からないということです。冷媒の漏えい歴も、修理歴も、たどれません。値段の交渉材料になります。
記録の前提として、点検の頻度を確認しておきます。
簡易点検は、すべての第一種特定製品が対象で、三か月に一回以上です。台数の除外はありません。厨房の製氷機一台でも対象です。
定期点検は、機器の定格出力で分かれます。
エアコンディショナーで五十キロワット以上のものは、一年に一回以上。
エアコンディショナーで七・五キロワット以上五十キロワット未満のものは、三年に一回以上。
冷蔵機器及び冷凍機器で七・五キロワット以上のものは、一年に一回以上。
七・五キロワット未満の機器には、定期点検の義務はありません。簡易点検だけです。
この「定格出力」は圧縮機の電動機の定格出力です。冷房能力のキロワットとは別の数字なので、カタログの読み違えが起きやすいところです。
専門の資格が要る作業ではありません。告示が挙げているのは、次のようなものです。
異常音、並びに、外観の損傷、摩耗、腐食及びさびその他の劣化、油漏れ、並びに熱交換器への霜の付着の有無。
冷蔵機器・冷凍機器については、これに加えて、貯蔵又は陳列する場所の温度も見ます。
油漏れが入っているのが要点です。冷媒は油と一緒に回っているので、漏えいしている場所には油のにじみが出ます。配管の接続部、バルブ、室外機の底。ここに黒っぽい汚れが付いていたら、ほこりではない可能性があります。
熱交換器の霜も同じです。冷房運転で室内機のフィンに霜が付くのは、冷媒量が足りていない徴候のひとつです。
当社が洗浄で伺ったときも、この範囲は目に入ります。気になるものがあればお伝えしています。ただし、簡易点検そのものは管理者側の作業です。
定期点検には、実施できる人の要件があります。十分な知見を有する者が、自ら行うか、立ち会うことが必要とされています。
環境省の運用の手引きでは、三つの類型が示されています。
冷媒フロン類取扱技術者の資格を持つ者。
冷凍空調技士や高圧ガス製造保安責任者などの資格を持ち、所定の講習を受けた者。
日常的に冷凍空調機器の整備や点検に三年以上携わってきた技術者で、所定の講習を受けた者。
洗浄業者が全員この要件を満たしているわけではありません。当社も、分解洗浄と防カビ処理が本業で、フロンの定期点検そのものは専門の業者にお願いする立場です。
見積りを取るときは、点検と洗浄が同じ会社でできるのか、分かれるのかを最初に確認しておくと、段取りが楽になります。
機器を捨てるときの流れは、法律で細かく決まっています。行程管理制度と呼ばれるものです。
法第四十一条は、次のように定めています。
第一種特定製品の廃棄等を行おうとする第一種特定製品の管理者は、主務省令で定めるところにより、第一種フロン類充塡回収業者が当該第一種特定製品にフロン類が充塡されていないことを確認した場合を除き、自ら又は他の者に委託して、第一種フロン類充塡回収業者に対し、当該第一種特定製品に冷媒として充塡されているフロン類を引き渡さなければならない。
冷媒を抜かずに機器を処分することはできない、ということです。
このときに動く書類が三つあります。
自分で充塡回収業者に依頼する場合は、回収依頼書。
解体工事業者などに委託する場合は、委託確認書。
回収が終わると、充塡回収業者から引取証明書が交付されます。
保存期間は、施行規則に書かれています。
回収依頼書の写しと委託確認書の写しは、三年。
引取証明書は、交付又は送付を受けた日から三年。
冷媒が入っていないことを確認した場合に交付される確認証明書も、三年。
点検記録簿と違い、こちらは廃棄の日を起点とした三年です。年数の数え方が別だということを、押さえておいてください。
ここは、はっきり書いておきます。
法第百五条は、三十万円以下の罰金の対象として、次を挙げています。
第四十三条第三項の規定に違反して、回収依頼書の写し又は委託確認書の写しを保存しなかった者。
第四十五条第三項の規定に違反して、引取証明書を保存しなかった者。
交付しなかった場合ではありません。保存しなかった場合です。
書類は受け取った、しかし現場でなくした。この状態が、条文上そのまま罰金の対象になります。
さらに重い規定もあります。
法第百四条は、第四十一条の規定に違反して第一種特定製品の廃棄等を行った者に、五十万円以下の罰金を定めています。冷媒を引き渡さずに機器を処分した場合です。
法第百三条は、みだりに特定製品に冷媒として充塡されているフロン類を大気中に放出した者に、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金を定めています。
解体や撤去を安く請けた業者が、現場で冷媒を抜いて大気に逃がす。これが起きると、条文上は罰則の対象です。そして機器の所有者は、引取証明書がないことで、引渡しを確認できていない側に立ちます。
撤去を発注するときは、引取証明書がいつ届くのかを、見積りの段階で確認しておいてください。
点検記録簿には、直接の罰則がない。ただし
点検・整備の記録簿については、保存しなかったこと自体を直接処罰する条文はありません。
根拠が告示、つまり判断の基準となるべき事項だからです。
ただし、そこで終わりません。法には段階が用意されています。
法第十七条で、都道府県知事が指導及び助言をすることができます。
法第十八条第一項で、使用等の状況が判断の基準に照らして著しく不十分であると認めるときは、勧告ができます。
同条第二項で、勧告に従わなかったときは、その旨を公表することができます。
同条第三項で、公表された後もなお正当な理由がなくて措置をとらなかった場合、命令ができます。
そして法第百四条第一号により、この命令に違反した者は五十万円以下の罰金です。
罰則がない、ではありません。距離があるだけです。そして途中に「公表」が入っています。施設名が出ることの重さは、金額とは別の話になります。
これは全事業者の義務ではありません。
フロン類算定漏えい量等の報告等に関する命令は、対象を次のように定めています。
法第十九条第一項の主務省令で定める者は、前条に定める方法により算定されたフロン類算定漏えい量が千トン以上である者とする。
千トンは二酸化炭素換算です。冷媒の種類ごとの係数を掛けて算定します。
期限も命令に書かれています。
特定漏えい者が行う法第十九条第一項の規定による報告は、毎年度七月末日までに、同項の主務省令で定める事項を記載した報告書を提出して行わなければならない。
一事業所あたりの漏えい量が千トン以上になる事業所があるときは、その事業所ごとの内訳も報告します。
報告をしなかった場合、または虚偽の報告をした場合は、法第百九条により十万円以下の過料です。
店舗一つ二つの規模で届く数字ではありません。ただし、多店舗展開している小売業や、冷凍設備の多い食品工場では現実味があります。
そして、この報告の裏付けになるのが、充塡回収業者が交付する充塡証明書・回収証明書であり、日々の記録簿です。記録が揃っていない事業者は、この計算自体ができません。
順に挙げます。
記録は業者が持っている。これは違います。点検・整備の記録簿は管理者が保存するものです。充塡回収業者が保存するのは、自分の業務の記録で、告示が管理者に求めている記録簿とは別物です。
点検はしているが記録がない。法の建て付けでは、記録がないものは確認できません。写真とメモでも、告示の八項目が揃っていれば記録簿として機能します。様式は定められていません。
ガスを入れた記録だけある。充塡の記録は八項目のうちの一つです。点検の実施年月日と内容、結果が抜けていると足りません。
リースだから関係ない。管理者は、機器の使用等を管理する責任を有する者です。所有形態だけで決まるものではないので、契約書でどちらが管理するかを確認してください。
機器を入れ替えたから古い記録は処分した。冷媒の引渡しを完了した日から三年です。廃棄工事の書類一式と一緒に保管してください。
洗浄を頼めば点検も済む。別の作業です。当社も分解洗浄と防カビ処理が本業で、フロンの定期点検は専門の業者の仕事だとお伝えしています。
ゼロから整えるなら、この順番が早いです。
一、機器の一覧をつくる。設置場所、型式、製造年、冷媒の種類と量。銘板を写真で撮っておくと後が楽です。
二、定格出力で区分する。七・五キロワット未満、七・五以上五十未満、五十以上。定期点検の要否と頻度が決まります。
三、機器ごとに記録簿を用意する。紙でも表計算でも構いません。告示の八項目が入っていることだけ確認してください。
四、簡易点検の担当と、回す日を決める。三か月に一回です。担当者が変わっても続く形にしておきます。
五、過去の書類を集める。充塡証明書、修理の伝票、撤去時の引取証明書。散らばっているものを一箇所にまとめます。
六、廃棄した機器の書類を確認する。引渡しから三年以内のものは残します。
初回だけ手間がかかります。二年目以降は、点検のたびに一行足すだけになります。
第一種特定製品は、業務用のエアコンディショナーと、業務用の冷蔵機器・冷凍機器です。
点検・整備の記録簿は、管理者がつくり、機器を廃棄するまで保存します。環境省のポータルサイトは、廃棄等を行い冷媒の引渡しを完了した日から三年を経過するまで保存する必要がある、としています。
記載事項は告示に八項目定められており、修理が困難である理由と修理の予定時期まで含まれます。
機器を他者に売却する場合は、記録簿またはその写しを機器と一緒に引き渡します。
簡易点検は全機器が三か月に一回以上。定期点検はエアコン五十キロワット以上が一年に一回以上、七・五以上五十未満が三年に一回以上、冷蔵冷凍機器七・五キロワット以上が一年に一回以上です。
廃棄時の回収依頼書の写し、委託確認書の写し、引取証明書は、いずれも三年間の保存です。
引取証明書を保存しなかった場合、法第百五条により三十万円以下の罰金です。
点検記録簿の不保存に直接の罰則はありませんが、指導、勧告、公表、命令と段階があり、命令違反は法第百四条により五十万円以下の罰金になります。
算定漏えい量が二酸化炭素換算で千トン以上の事業者は、毎年度七月末日までの報告義務があり、怠ると十万円以下の過料です。
株式会社雅堂では、業務用エアコンの分解洗浄と防カビ施工を行っています。洗浄で伺った際に気づいた外観の異常はお伝えしていますが、フロンの定期点検そのものは専門の業者の仕事です。どちらが必要な状態なのか分からない場合も、現地調査の段階でご相談ください。
お電話受付 9:00-20:00 / 080-7744-9636
フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)
フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)
フロン類算定漏えい量等の報告等に関する命令(e-Gov法令検索)
執筆:株式会社雅堂 宮下知也(一般社団法人抗菌防カビ清掃技術研究所 副理事長兼講師)
更新日:2026年9月16日